第10話 夢駆け作者、主人公に情報を渡す


「事件が起きたら堂々とスカウトできるのにね」


 作戦を練るにしろ、ケイマがどう動くかによるのだから私ができることは思いついた言葉を羅列するくらいだろうか。彼らの物語を描いた昔のように、ぼんやりと空想に浸りかけた時だ。そういえば彼らが仲間になるのは事件が起こったからだったはずである。しかもそれは中学校一年生あたりの話ではなかったか。どういうことかはわからないがかなり時期がずれているのである。

 こちらを見たケイマは「事件?」と首をかしげる。私はペンを回した。


「なんか事件があって結託させたような気がするし、やっぱり事件がいるんじゃない?」

「事件なぁ。俺が華麗に盗みに入るとか?」


 彼の言葉に今度は私が首をかしげる。


「あの二人周辺で盗むモノがあるの?」

「それはなんとも。作ればいい話ではあるけどな」

「無理矢理に理由を作っても君の美学に反するだけでしょ」


 そう言ってまたくるりとペンを回す。彼は「さっすがわかってる!」と声を上げた。彼の怪盗の美学は正直よくわからないが、どうも義賊的なものを好むようである。


「でも、そんなうまく事件が起こるもんか? ミドリの考えてた話をだとどうなったんだよ」

「たしか中学校一年生の頃に事件が起こったとかなんとかだった気がする」

「結構タイミングがズレてんのか」

「まぁー、結局は私の夢の世界だし、なんとも言えないけどね。でも、私とケイマがあったことで歯車が噛み合うみたいになってさ、水面下でなんか動いてるかもよ」


 私はそんなことを言いつつ、テレビをつけた。ちょうどニュースが切り替わるタイミングだったのだろう。昨日から報道されている亡くなった政治家の話をしている。急な病死として彼の今までの功績のようなものをニュースキャスターが並べていた。まぁ、ケイマが考えろよー、と私の視界を遮ったが。


「あの政治家さんは凄い人?」

「凄い人っつーか、首相に近かった奴らしいけどな。俺が日本離れてた時に外相がなんかしてた気がする。どっかの会談で、日本は未来がわかるんだとか言ってたっつー話は聞いた」

「未来がわかる?」

「どんな意味かはわからないけどな。冗談かなんかじゃないかって説が有力」


 その言葉を聞いてうわぁ、と私が頭を抱える。この人、恐らく殺された感じではなかろうか。それが日本の内側の犯行なのか外側の犯行なのかはわかりかねるが。先ほどの言葉のはわからない人はわからないが、意味がわかる人にはわかってしまったのだろう。


「ミドリ?」

「いやぁ、あははは……たぶん、それ冗談でもなんでもないと思う」

「まさか、オッさんが未来予知できたってことか?」


 ケイマの問いかけに首を左右に振る。


「ううん、あの人が未来予知したんじゃないけど、確か日本には未来を予知できる一族的なものがあったはず。予知というか夢で見るって感じだけど。それは一応秘匿されてた、はず」

「なるほどな、わかる奴にはわかっちまって排除されたのか、利用された上で用済みになって殺されたかどっちかだな」

「……まぁ、あの政治家の話は置いといて、本家でないけど隔世遺伝的な感じで能力を持ってるが故に本家に出入りしてる子がいるんだけど」

 ちょうどあの学校に。


 私の台詞に彼は真面目な顔になる。どうやら何か考えているらしい。そして恐らく何かが結びついたのだろう。


「……これ、起こるかもな、事件」

「でしょうね。……やっぱり首突っ込むの?」

「当たり前だろ。まとめてスカウトしてやんよ!」


 彼はそう言ってまたニヤリと笑って見せた。



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