第9話 夢駆け作者、パンドラの箱をつつく(2)
彼の名前は中村コウヘイ。ケイマと同じく同級生だった少年をモデルに作った彼は、家事全般を完璧にこなしてみせる主夫である。それだけならばほっこりするのであるが、中学生の頃の私がつけた設定はそれだけではない。ケイマ率いる怪盗集団の中で一番背が高い彼は、確か海外マフィア系統に顔が利く存在だったはずだ。格闘技にも優れている上に、運転はなんでもござれというスーパーマンなのだ。
今考えると設定が山ほど積み重ねられているのだが、そんな彼の、いわゆる裏社会での通り名が貴公子なのである。まぁ、2枚目な外見に加えて所作も気品がある。……やっぱり設定てんこ盛りだな。ここまで言えば私がしでかした事がいかに馬鹿なことか理解できただろうか。
「既視感がする相手に裏社会の通り名呼ばれたらそりゃあ警戒されるよね」
地下についてソファに座って告げる。ケイマは近くに置いてある新聞を手に取って私の頭を軽く叩いた。痛みはないが小気味良い音が鳴る。
「お前……お前なぁ」
「いやー、つい」
「つーことは、なんだ。あの車をパンクさせたのはコウヘイだっていうのか?」
「それは違うと思う。彼の従者というか、雇ってつけてるボディーガード兼殺し屋というか」
「は? そんなものもいるのか?」
「生徒会の女子生徒だか男子生徒だかぱっと見わからない生徒だよ」
私のセリフにケイマは頭を抱えた。
やーい、気づいていないでやんの、と揶揄うかと思ったがやめる。恐らく向こう側もケイマが怪盗であるとは気づいていない。お互いに偽るのが上手いのだろうし、お互い一般人だと思っているから少しのことでは結びつかないのだろう。やってしまった、と少し後悔する。私が思い描いていた二人の関係性は怪盗集団の仲間という形だ。でもこの世界の彼らの関係性は今の時点では違う。普通の同級生で、普通の友人だ。彼らにはそれぞれ生活があって、違う世界を生きている。それは他も同じだ。私はそれを崩してしまおうとしているのだ。
コツンと、額に何かあたる。なんだ、と思えばまた新聞紙を丸めたものだ。怪盗が現れたことが書かれている記事がみえる。
「まぁ、気にすんなって。こっちは先に情報掴んでんだ。対策はできるし」
「……できるし?」
彼は私の顔を見て不敵に口角を上げて笑った。
「普通じゃないなら仲間にもできる」
その言葉に私は目を瞬く。彼は表情をころりと変えて子供のように無邪気に笑って見せた。
「いやー、目をつけてたっちゃ目をつけてたんだよな! たまにスッゲェいい動きすんの! きっかけがなかったし、一般人と思ってたんだよ!」
キラキラと、何か宝物を見つけた子供のように。彼はそんな表情を浮かべてサンキューな! と私の背中を叩いた。ケイマは眩しいぐらいのプラス思考だ。それが羨ましくもあり眩しくもある。どうやら私の思い過ぎらしい。ふはっ、と息を漏らして笑ってしまった。もう目をつけていたのか。そうかぁ。ケイマはどこからともなく2本のペンと紙を取り出すとローテーブルに広げた。
「ついでに仲間に誘う方法考えようぜ! ミドリも考えてくれよ! ついでにミドリの身を守る方法も考えるし!」
「私の身を守るのはついでか」
「だってミドリは基本ここにいたら安全な訳だし。あと失言しなきゃ大丈夫だろ」
「まぁ、夢だからいいけどさぁ」
そう言いながら私は彼の取り出したペンを握った。
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