第36話 夢駆け作者、問答する / 貴公子、ショートカットを作成する


 その先に続いているのはまるで美術館の通路みたいな道だった。ぽつりぽつりと等間隔でライトが廊下を照らしている。監視カメラは恐らくこの出入り口を捉えるためにあるものだ。ならば、入り方を知っている男以外は招かざる客であることは間違いがない。ケイマは指輪にそっとミドリ? と尋ねるが相変わらず通信が繋がる節はない。戻ったら通信回路を強化する必要がある。今まではなんせ一人でこなしてきたし、ミドリともそこまで離れることを考えていない。やることは山積みである。

 男に続いていく周りにケイマとコウヘイもまた足を踏み出した。全員が中に入るのを確認して男は内側にあるスイッチを押した。その瞬間、扉は閉まり行き止まりとなる。逃げ場がない。道が一本道ならば正面からしか誰かは来ないが、壁のしかけはわかりかねる。ケイマは壁をコツコツとノックしながら彼に続いていく。コウヘイはそれを見て同じように反対側の壁を等間隔でノックしていく。


「閉所恐怖症かな?」


 環はそう言ってケイマを見る。ケイマは頭をかく。


「閉所恐怖症じゃないけど、なんつーか、逃げ道がないのは嫌なんだよなぁ」

「まぁ、正面から銃火器を持った人間がいても真っ先に犠牲になるのは先頭のアイツだが」

「何処の国の話です? ここは日本ですよ! 銃火器なんであるわけないじゃないですか!」


 サキの言葉に男は「ガキ、お前こそ何言ってんだ」と煩わしそうに見下ろした。


「こんな違法の場所に常識なんて通用するわけないだろ」

「違法?」

「驚いた、新しい支配人は本当に知らないらしいな。この先にあるのは」


 そこで男が言葉を止め、立ち止まる。そして通路の先暗くてよく見えない場所を見た。

 ケイマも微かな靴音を捉えてその先をみた、が、微かに聞こえた歯車の音に周りを見渡した。コウヘイは眉間に皺を寄せて振り返る。


「前言撤回だ、後ろも気をつけた方がいい」

「前はなんとかしてやるから後ろはどうにかしろ」


 男の言葉にケイマは息を吐く。


「こっちは反響はないけど、コウヘイの方はどうだ?」

「反響がある。作るか」

「いけるか?」

「おい、早くしろ」


 男の言葉に、ケイマは支配人とサキ、環を下がらせた。コウヘイが長い足を思いっきり振り上げる。そして、それを壁にむかって振り落とした。その瞬間、轟音と共に壁が崩れる。その先にいた人物はひらりと手を振って見せたのだが。




 さて、話を戻そうか。そう告げて席に戻った富岡にミドリは首をかしげる。


「そもそも、貴方はどうして私に存在証明がないと調べたんです?」


 ミドリのその問いかけは富岡にとって不思議だったらしい。彼は驚いたように目を瞬くと口を開いた。


「驚いたな、君は何も知らないというのか? 今の今までどうやって生きてきた?」

「普通に生きてましたよ」

「普通とは? 存在しない君の普通は世間一般の普通ではない」


 まぁ、普通の定義は知りませんけど。ミドリはそう前起きを置いてから近くにあった葡萄を一粒つまんだ。


「学校に通って卒業して社会人でしたけど。気付いたら学生に戻っていただけで」


 その発言に流石の富岡も顔をしかめた。冗談か本当かミドリがあまりにどこ吹く風でいうのでうまく返す言葉を返せなかったのだ。ちなみに聞いていたリョータはミドリを凝視した。えっ、まさか、ミドリちゃんって痛い子? ハルはやれやれと肩をすくめた。でた、ミドリのよくわからない発言! そんなものを無視してミドリは耳のピアスに触れる。徐々に雑音に混じって会話が聞こえている。


「まぁ、君の冗談は置いておいて。そうか、君は何もしらないのか」


 富岡は冗談ととったらしい。


「金を払えば情報なんていくらでもわかる。だが、君の情報だけは何一つ表れなかった。君が存在しない証拠だ」

「なんでも情報が手に入るなんてありえないのでは」


 と言いつつ、ミドリは「ありえるんだな」と内心思う。昔の自分が作った世界なのだから、なんとなくそういう存在――情報屋というものがあるのは覚えている。

 富岡はまた笑みを浮かべる。


「いいや、ありえるよ。例えば、君の隣にいるその少年が神風の次期当主であるし、もう一人は両親が海外の貿易会社に勤めている関係で世界を転々としている」


 ミドリは二人を見る。色々と初耳である。リョータは引き攣った顔を浮かべている。ハルのそれは恐らくは偽の情報だろうが。ハルは「あちゃあ」というふうに両手で顔を隠しているが、横からみえる表情は真顔である。

 フリが上手いことで、とミドリは富岡をみる。


「ふーん……じゃあ、後の二人のうち、一人の正体は?」

「正体?」

「あと、もてなすってどういうこと?」


 ミドリの問いかけに、富岡が答えようとした瞬間である。轟音と共に壁が崩れたのは。さすがにそれはおもしろすぎる。その先にいた人物達にミドリはひらりと手を振った。


「ショートカットしすぎじゃない?」

「助けに来てやったのになんだその発言は」


 コウヘイはそういって眉間にしわを寄せる。ケイマは面白そうにケラケラと笑っていた。

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夢駆け作者と登場人物~昔かいた登場人物とエンカウントしたら物語に巻き込まれました~ 海波 遼 @seaisfar

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