第30話 主人公、探偵と合流する(1)


 ホテルのバルコニーの一角である。ジュース片手にケイマは手すりに持たれる。スマートフォンの自撮りアプリもどきを立ち上げてコウヘイに近づいた。同じくジュースを片手に持っていたコウヘイは一瞬いやそうな顔をした。


「お前とツーショットを撮る趣味はない」

「ひでぇ、別にいいだろ。子供なんだから」


 ほら、と言ったケイマは無理やりコウヘイを画面の中にいれた。コウヘイはスマートフォンの画面を見て、息を吐いた。起動しているカメラアプリは確かに一部に二人が写っているが透けている。そのかわり、ホテルの外側の景色が鮮明にうつしだされていた。


「コウヘイはどう思う? 何か隠してると思うか?」


 ケイマはコウヘイにそう尋ねる。コウヘイはカメラを見ながら口を開く。


「隠しているならミドリの言葉の反応を見るに、恐らく賭け事関係だろうな。ただ、職員の反応を見るに職員が知らない可能性はある」

「職員が知らない?」

「正しくはほんの一部の職員しか知らない、だ。一部にしか周知されていない。なおかつこういう賭博場は招待制だ。スタッフにしろ、客にしろ変装して忍び込むのは骨が折れる」

「客に関してはなんとなく目星はついてんだよな」


 ケイマはそう言ってジュースをコウヘイに渡すと画面を拡大しようとしたが――「おや? 二人だけ別行動かな?」という声にカメラをさげた。カメラを退けた先にいたのは自称記者の環とその近所に住むという飯塚サキである。邪魔が入った、と小さくぼやいたケイマはあたまをかいた。


「んー、まぁ、ちょっとな」

「あぁ、もしかして二人はそういう仲?」

「お? 記者さんにはそう見える?」

「やめろ、俺はお前は好みじゃない」

「奇遇だな、俺もコウヘイは好みじゃない。ちょっと気になる建物だったから建物見回ってただけっすよ」

「あぁ、確かに、このホテルは変わってるね」


 環はそう言ってにこやかに笑った。


「なんでも西洋の城をわざわざ真似て作ったらしい。でも、建築的に不思議みたいで、私も調べていたんだ」

「記事にするためにですか?」

「まぁね」

「なになに、面白そうなことあるなら教えてくださいよー」


 ケイマはケラケラ笑いながらそう告げる。環はいいよと頷いた。


「今から確かめに行くから一緒においで」

「先生!?」

「いや、彼らといるとおもしろい記事が書けそうだから」


 そう言って環はサキを見下ろす。ダメかな? と首を傾げた環に、サキは「もー、仕方ないですね!」と息を吐いた。コウヘイとケイマは顔を見合わせる。そんなつもりなど一ミリもなかったからである。ほら、早くいきますよ! とサキは二人の背を押した。ケイマは通信機になっている指輪に向かって日本語ではない言語――かと言ってコウヘイが聞いたことがあるようなメジャーな言語ではない――で小さく呟いた。その内容がわかったのは、一応と通信翻訳つきのピアスをつけていたからだろう。


「合流が遅くなる。まだそこにいてくれ」


 ミドリからはただ、了解と短い返事がきた。

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