第29話 夢駆け作者、刀を見つける(2)


 スタッフに案内されて展示された場所に向かえば貸し切りである。ミドリとリョータは貸し切りでいいのかとスタッフを見たがスタッフは良い笑顔で頷いただけだった。


「ごゆっくりご鑑賞ください!」


 ミドリ達もでは遠慮なくと展示室に足を踏み入れた。



 中に入れば美術館みたいなものだった。さまざま展示品がある。絵画や彫刻はもちろん、宝石や金貨なんてものもある。その一角にその二振りの刀はあった。春告、秋告と書かれた札が一緒に掲げられている。それを真っ先に見つけたのはハルである。他の展示品に興味がないのか一目散にそこに向かったハルは、展示品を見ている二人に声をかけた。


「二人ともー、予告の刀あったー!」

「ちょっとゆっくり展示品みたい」


 ミドリの言葉に、ハルは「もー!」と唇を尖らせた。


「貸し切りだし逆行オッケーでしょー」

「それもそうだ。リョータさん、行こう」


 二人がハルの近くに移動すれば、ショーケースの中の刀が見えた。その刀の刃の部分をじっと見つめたリョータはイキナリしゃがみ込んで頭を抱えた。


「だからなんで梅千代うめちよ紅葉一光もみじいっこうがここにあるんだよ!!」


 おや? とミドリはリョータを見つめる。リョータの口から違う刀の名前が飛び出たからだ。ハルはリョータの背をぽんぽんと叩きながら口を開く。


「リョータ、間違ってませんー? 春告と秋告だよ、刀の名前」

「そうだけどそうじゃないんだよ……」


 ミドリはスマホの検索で情報をみる。梅千代、と検索をかければ、梅千代は明月家に伝わる刀と書かれ、紅葉一光は神風家の刀と書かれていた。どうやら双方歴史的価値も高く、有名な刀工が作ったと言うことが説明されている。ミドリは双方の説明を読み、とある一文を確認して口角をあげた。


「ははーん、そういうことか」

「なに? ミドリ、何かわかったの?」

「紅葉一光は神風家の家宝であるため門外不出。門弟でも一部しか姿を見たことがあるものはない。梅千代もまた明月家にて門外不出の宝物。つまり、刀に他の名前をつけて持ち出せば紅葉一光や梅千代じゃない刀を持ち出したことになる、と」

「そう言うことだよ……」


 相変わらずしゃがみこんでいるリョータは二人を見上げる。ハルはリョータと同じくしゃがみながら尋ねた。


「なんでそんなことをリョータが知ってるんですー?」

「もう面倒だから白状するけど、母さんが神風家の人間なんだよ」

「だから貴方達は剣術を習ってるわけだ」

「爺ちゃんの言いつけでな。で、その刀、昔に秋告として明月家に貸し出されて……そのままのはずだったんだよ」

「なんで貸し出したのー? 家宝でしょ?」

「昔っから明月家と神風家は仲良しだかんな、お互いで婚姻の関係で貸し借りされるんだよ。だから、神風家に春告と紅葉一光がある時もあれば、明月家に梅千代と秋告がある時がある。爺ちゃんの妹が明月家に嫁入りしたときに持っていったらしい。金婚式を超えたら戻ってくるはずなんだ」

「わかった、それ今年でしょ? しかも近日中」


 ミドリはそう言ってリョータを見下ろした。リョータは驚いたようにミドリを見上げた。


「なんでわかったんだ?」

「あー! なるほどー! だからだー!」


 ハルはポン! と手を叩く。恐らくはこの事態を招いた明月家の人間は焦っている。どう言う経緯でこの刀がここにたどり着いたかは知らないが、返さなければならないものが手元にないのだ。だから、怪盗の名前を利用して盗み出そうとしている。


「えー、でも自業自得だねぇ」

「え? 何が?」

「リョータには関係ないことだけどさー」

「なんだよそれ、気になるなぁ」

「この刀を盗むっていう怪盗の予告状なんですけど、怪盗の追っかけしてるケイマ曰く偽物らしいんですよね」


 ミドリはそう言いつつ周りを見渡す。監視カメラはやはり数台ある。


「偽物?」

「なんでも筆跡をかえてるのに、同じ筆跡がきたからコピーだとか。まぁ、予告状が偽物だとしたら、違う誰かは盗み出そうとしてるわけじゃないですか。さて、ここで盗まないと困る人間はだーれだ」


 ミドリはそう言ってリョータを見下ろす。リョータは目をパチパチと瞬いて首を傾げた。


「明月家のやつか」

「そう言うことです。まぁ、この監視カメラ、出口のない場所、プロじゃない誰かはどうやって盗むかはわからないけど」

「いや、剣術に秀でてる明月家の人間ならいけると思う」

「どーいうこと?」

「明月の剣術は、なんでも斬れる」

 それが鉄であろうが、何であろうが。


 リョータの言葉にミドリとハルは目を見合わせた。



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