第31話 主人公、探偵と合流する(2)
「環先生」
環が向かった先にいたのは綺麗なスーツを着こなした女性である。胸元にはホテルのスタッフがつけている名札がついていた。ひらりと環が手を振り、口を開く。
「すいません、お時間をいただいておいておくれてしまい」
「いえ、私が編集者を通じお願いしたことですから……彼らは?」
「私の近所に住んでいる子達です。助手みたいなもので」
さらりと嘘をついた環に、コウヘイとケイマは素知らぬ顔をした。助手でーす、と声を上げたケイマに合わせ、コウヘイもまた礼儀正しく胸元に手をおいて、助手です、と名乗る。サキが眉尻を吊り上げて「ちょっと!」と二人を睨んだ。
「助手は僕とユカ姉だけですから!」
「すいませんね、ちょっと騒がしくて」
「いえ、元気なのはいいことです」
そう言って女性は笑って見せた。環は三人を見て口を開く。
「彼女は梓。高飛梓。このホテルの今代支配人で私の大学時代の友人。加えて依頼人」
「依頼人?」
コウヘイとケイマは興味深そうに環をみる。サキは二人の腕を引っ張って無理矢理屈ませると、二人の耳元に唇を寄せた。
「先生は、執筆の傍らこうして依頼を受けるんです」
「探偵みたいなものか?」
「みたいなものじゃなくて、探偵なんです!」
コソコソと交わされる会話である。コウヘイはケイマをみた。へぇ、と相槌をうったケイマは口元に笑みを浮かべている。コウヘイはサキに尋ねる。
「ということは、『先生』は怪盗の依頼を受けて?」
「いえ! 劇場型犯罪者が予告したのは先生が依頼を受けた後です。でも僕も詳しく聞いていません。先生の受ける依頼は殺人事件と変な事件ばかりですが」
「少年たち、内緒の確認はすんだかな?」
環の言葉にサキは慌てて二人の腕から手を離した。えっと、はい、と返事をしたサキに支配人はまた笑う。そうして、こちらへどうぞと支配人室の扉をあけた。
最上階ということもあって見晴らしは美しい。梓は座り心地の良い青い皮張りのソファに案内しようとしたが、流石に四人は座らせられないことに気づいた。コウヘイは営業スマイルにも似た気品がある笑顔を顔に貼り付けた。
「俺たちはお構いなく。弟子とは言え今回先生について来たのも成り行きのようなものなので」
「じゃあ俺が遠慮な――くぅ!?」
コウヘイがケイマの足を思いっきり踏みつける。ケイマは驚いた猫のように跳ねかけたのを無理矢理とめた。コウヘイはケイマを睨む。
「お前は立て。サキは座れ」
「えっ、でも」
「こういうのは年長者と年少者が座るものだ。さっさと座れ」
「でたよ、お前の俺とミドリには向けられない優しさ……で、支配人さん、俺たち先生になーんにも聞いてねぇんだけど、どうしたの?」
「私はこのホテルを受け継いで半年になるのですが」
「それはご就任おめでとうございます」
コウヘイの営業スタイルである。綺麗な笑顔を浮かべてやがる、とケイマは苦笑いをした。
「よくわからないことが多々あって。父に聞いても父もわからないらしく……」
「というのは?」
「建物によくわからない空間があります」
梓はそう言って困った顔をした。ケイマとコウヘイは環をチラリと見た。なるほど、確かめに行くとはこういうことを言っていたらしい。環は手帳をめくりながら口を開く。
「確か――増改築をしたわけではないのに建設時の資料にはある通路がない、あるはずの部屋がないだったかな?」
「へぇ、隠し部屋ね。面白そうじゃん。そのあるはずの通路と部屋は何処にあるはずなんだ?」
「地下です。それを環さんに調べてもらおうと思ったのですが」
「怪盗騒ぎになってしまったね」
「ええ。まさか、彼らがこのホテルに目を向けるとは思っていなくて……」
「彼らは義賊だったね、彼らが盗みに入った場所は何か悪事が発覚する。一応聞くけど君に何か覚えは?」
「全く。でも、送られてきた予告状を見て思ったの」
梓は今度は眉間にシワを寄せて環をみた。
「あの刀も、宝石も、私が小さい頃はなかったはず。どうして増えたのか私は全く知らないのよ」
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