第32話 貴公子、推測する / 夢駆け作者、罠にはまる


 白か黒か。コウヘイは笑顔で相槌をうちながら相手を見る。もし、ここに自分が考えることが本当に行われているのならば。支配人という立場の彼女は果たして本当に関わっていないのか。ケイマは「じゃあさ」と口を開く。


「支配人さんの部下で父親時代の部下って何人くらいいる? しかも、結構立場が高い人」

「今年の新卒以外はみんなそうね」


 ケイマは苦笑いしてほおを描く。そういうことじゃねーんだけどなぁ、と内心ゴチると彼は口を開く。


「ここのナンバー2って誰」




 こんにちは、ラッキーガール。

 そうかけられた言葉にミドリ達は振り返る。

 刀の前から移動して展示されていた数々宝石を眺めていた時である。ケイマの指示通りに時間を潰していた時だ。振り返った先にいたのはグレーのスーツを着こなしたみるからに品の良い男性だった。灰色がかった髪を後ろに撫で付けた彼は、人のいい笑みを浮かべている。ミドリもにこりと愛想のいい笑みを浮かべた。


「こんにちは」

「展示室は楽しいかな?」

「はい、色々なものが展示されていて……ええっと、貴方は――」


 ミドリは男性の胸元につけられた名札を見た。副支配人と書かれている。


「副支配人さん?」

「ええ、いかにも」

「ええっと、特別なチケットを当てていただきありがとうございます?」

「いえ、貴女の運が良かった、それだけですよ」

「……うん? ということは、ミドリだけが当選してて、他はおまけで同じ対応してくれてるってこと? ふとっぱらさんだー」


 ハルはそう言ってミドリの一歩だけ前にたった。ミドリはおや? と内心首をかしげる。何か警戒するようなことがあるのだろうか。それらしい雰囲気は感じられないが。


「お一人だけだと寂しそうですから。後の二人は?」

「ホテルの中を探検してくると飛び出して行きました」


 ミドリは困ったように笑った。彼はそうなのですかと考えこんだ。


「貴女達のために特別なお部屋を用意しているのですが」

「特別なお部屋?」

「はい。詳しいことはお楽しみです。先にご案内致しましょう」


 そう言って案内しようとする副支配人にミドリが返事をする前に、「ダメでーす」とハルが返事をする。


「待ち合わせしてるし、他の二人が心配しちゃうからだめでーす」


 ハルはそう言って首を左右に振った。副支配人は困ったような顔をして、ミドリをみる。


「では、また後で迎えにくるとしましょう」


 そのまま踵を返した彼は出口に向かう。そうして、ご丁寧に扉を閉めた。ミドリはそれを見て首を傾げた。


「ん? なんであの人は扉を閉めた?」


 ハルが目を見開いて、しまった、と英語で呟いた。ハンカチを取り出すとミドリの口に当てる。


「リョータは自分で口を塞いで!」

「は? なん――」

 で。


 そういう前にリョータがよろけた。そうして、そのまま地面に倒れ込む。ミドリは声を上げかけたが、意識がクラクラとしてくるのがわかる。


「ミドリ、ミドリ、おきて、ミドリ――」


 だんだんと遠くなる声に、ミドリは目をそっと伏せた。


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