第19話 その怪盗団、華麗に逃亡する


 とりあえず車に向かえば良いのですかね、と思っていれば耳元でミドリ! という声がした。周りを見渡しても特にケイマはいない。と言うことは通信だろう。


「そこの窓から飛び降りろ! にげんぞ!」


 私は近くの窓を開ける。そこにあったのはあのクラシックカーが屋根がない所謂オープンカーの形になっている。運転席に誰もいないがどうやってここまで運転してきたのだろうか。とりあえず私は二人を手招いた。


「あれにむかって飛び降りて」

「おいまて、ココ何階だとおもってるんだ」

「三階。まぁなんとかなるなる」


 そう言って私は二人の手を掴んだ状態で窓から身を投げる。菅俣ちゃんが「うえ!?」と声を上げた。ケイマが指輪に何か吹き込んだらしい。その瞬間、視界が切り替わり、三人まとめて後部座席に着地していた。衝撃も少しの衝撃だったが。これはもしかしなくてもテレポートでは。そう私が驚いていれば、菅俣ちゃんが「ふぎゃ!」と声を上げたのだが。なんだ? と見ればコウヘイくんが菅俣ちゃんを手刀で気絶させている。

 ……見なかったことにしよう。多分彼なりの配慮かなにかだろう。多分。おそらく。きっと。


「三人まとめてくる奴がいるか!」

「まぁ、いいじゃんいいじゃん」


 助かったのだし。ははは、と笑いながら私は運転座席に移動する。


「その話は後でね。さてと警察ぶっちぎって帰りますか、相棒」

「お前の腕前にまぁ期待してる」


 私はエンジンを蒸す。エンジンをかけてミッションを一速にいれサイドブレーキを下す。半クラの状態を経てそのままアクセルを踏み込めば車は動き出した。そのままクラッチとミッションを操作し加速していく。

 ナビをみるにこの先にある崖を突っ切れば道路につくらしい。よし、いける。いきなり現れた車に周りはてんやわんやだった。逃げまとったり追撃をしようとしたり統率が撮れていない。私はスイッチを押してオープンカーの状態から屋根のある状態へとかえる。


「おい、まて、この先は」

「――それでは皆様シートベルトをつけた上で何かにお捕まりください。コウヘイくんはおとなりの菅俣ちゃんをお押さえください」

「は?」

「喋ると舌噛むから気をつけてね」


 見えてきた崖にまわりが青い顔をした。私はそのままつっきる。結構なスピードである。宙に浮く感覚、落下する感覚。ジェットコースターにのっているような浮遊感。その全てが襲いかかってきたかと思えば、着地の衝撃が襲ってくる。私はその瞬間にハンドルを切った。急に旋回した車の後ろには、恐らくはそれ以上は踏み込むなと言われているパトカーの集団だ。バックミラー越しに警官達が目を見開いてこちらを見たのがわかった。その様子にふふんと笑うと、私はスピードを落とさないままトップスピードでそのまま去る。遠ざかっていく警察達が慌ててパトカーを飛ばしてくるのが見えた。


「でも遅いんだよなぁ」


 ふはっと笑いながら、もう一つギアを上げる。そしてそのままドリフトしながらカーブを曲がった。しかしまぁ、警察も食いついてくると言うか。バックミラー越しにパトカーが見えた。ちょっと楽しくなっている私はケイマをちらりとみる。


「煙幕弾を撃つのが良いと思う? それとも一番前を走る車両をパンクさせた方が良いと思う?」

「……お前そんな神業出来る奴がいると思ってんのか? 俺は無理」

「……いや、ハルなら出来るぞ」

「え、マジで?」


 後部座席の真ん中に座ったコウヘイくんの言葉にケイマが後部座席を見た。


「え? 神田が? まじで?」

「――表ではどうであれ、こいつの腕は一流だ。だが、お前達が実弾を使って良いのか」

「よろしくない」


 ケイマはそう言って私も持っていた銃をハルくんちゃんに渡した。


「そのままひけば煙幕弾になる」

「なるほどな」


 コウヘイくんが片手を上げた。ハルくんちゃんが窓から身を乗り出して銃を構える。同じくケイマが窓から身を乗り出して何か紙をばらまいた。そして演劇がかった口調で口を開く。


「警察の皆さん! 私はヒントをばらまきました。後は貴方達が真実を突き止めるだけです。貴方達のご活躍を期待しています。それでは、また何時か、静かなる夜にお会いしましょう!」


 ケイマがそう宣言した瞬間、コウヘイくんが「撃て」とつぶやくようにつげる。その瞬間、ハルちゃんくんが引き金を引いたようだった。パン、という音とともに煙幕がひろがる。そのまま車はトンネルへ入り、私は車が見えなくなるボタンを押した。光化学迷彩的な仕組みだろうとはおもってはいるが。何処かのマンションかどこかの駐車場でそれを解くか、と息を吐く。バックミラー越しに後ろを確認すれば警察車両はおいかけてきていない。ハルくんちゃんが車の中に引っ込み、助手席の彼も引っ込んだのだろう。

 彼らはしばらく黙り込んだかと思えば、ケイマはケタケタと笑い出した。私も面白くなって笑う。コウヘイくんも笑った。いやぁ、なかなかに刺激的な体験だった。


 しばらく端を走行していればパトカーが何台も通り過ぎていくのが見える。きっとあのトンネルは今頃包囲されているのだろう。さあ、あとは基地に戻るだけだ。帰るまでが遠足、もとい、帰るまでが怪盗業である。


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