第20話 夢駆け作者、怪盗団に入団する
また夢の中の夢だ。真っ白な空間の中に相変わらず狩衣を着た人物はいた。今回が前の二回と違うのは、夢だと理解したときにはもう彼が先にいたということだろうか。こんばんは、と声をかければ彼はしずしずと頭を下げる。
「あの子を助けていただき、ありがとうございます」
彼は私にお礼をいう。私はお礼を言われることはしていないはずである。なぜなら、彼女――菅俣ちゃんを助けたのはケイマの功績である。まあ、コウヘイくんに至っては私の功績かもしれないが。それにしたって成り行きだ。
「私はなにもしていませんよ。成り行きに身を任せたというか」
「いいえ、貴方がいなければ、あの子はきっと助かりませんでした。もっとも、貴方がいなければあのような事件も起こっていませんが」
彼の言葉に私は首を傾げた。私はそんな落ち度のあることをしてしまっただろうか。いや、あの、貴公子の下りはやってしまった感はする。しかし、菅俣ちゃんのことは私が何かする前に水面下で動いていた事では。考えても答えがでなくて、答えが欲しくて彼を見る。彼はクスクスと笑うだけだ。
「そのうちわかりますよ。では、ミドリさん、またいずれ、現実で」
そんな言葉と共に突風に飲まれる。花などそこにないはずなのに、花弁が宙を舞うなか、端正な顔立ちの青年が笑っているのが最後に見えた。
目が覚めたら現実だった、となれば夢落ちという形になるのだろうか。
残念ながら私が目を覚ましても、あのクラシックカーの中だった。いつになったら覚めるのかわからない夢というのも変なものだし、夢の中で夢をみるというのも変な感覚だ、まぁ、あの怪盗みたいな体験が夢の中でみた夢かと言えばノーである。その証拠に私のスマホは銃弾がめり込んだ状態であるからだ。おかげさまでスマホは使い物にならなくなってしまったが。
のそのそと運転席から降りてリビングダイニングに向かう。寝癖はこの際気にしない方向でいこう。外見中学生だし、多少は許されるはず、だと思いたい。リビングダイニングに続く扉を開けばソファで寝落ちている中学生がいた。そうだよ、私が普段寝ているソファは譲ったんだった。寝顔は三人ともただの中学生なのになぁ、と思いながら冷蔵庫を開く。
ちなみに菅俣ちゃんは四人で協議の上部屋に送り届けた。いなくなったのがちょっとした騒ぎになっていたようだし、ケイマが怪盗としてかいたカードを近くにおいたので恐らく彼女の周りはちょっとした騒ぎになっているだろう。仲間にしたいケイマだったのだが、コウヘイくんがいきなりはやめろと言ってとめていた。まぁ、君いろいろしでかしているし気まずいのだろうけれど。
とりあえず適当に朝ごはんをつくるか、と卵や野菜を取り出して冷蔵庫を閉める。買い置きしていたパンをトーストして目玉焼きとサラダでいいだろう。私が来るまで使われていなかったフライパンなどの調理器具を取り出して鼻歌交じりに調理を始める。
「ミドリ、朝ごはん?」
ソファから起き上がってやってきたのはハルくんちゃんである。彼もしくは彼女はカウンターに座った。
「みんな今日は学校でしょ?」
「そだねー、でも、主の荷物とか全部まえのへやだしさー、制服とかもないんだよねー、だからおやすみがいいよね!」
「サボるなー、中学は義務教育だよー」
「……義務教育ってなに?」
そう首を傾げた彼女に、私は起きているであろうコウヘイくんをみた。彼は素知らぬ顔でカウンターに座った。
「こらー、雇用主なのか幼馴染み的な関係なんかわからないけども、義務教育の説明くらいしなさーい。日本は通わないといけないんだぞー」
「どの学校にも通ってなさそうなお前に言われたくない」
「私は社会人だから」
私はそう言って目玉焼きをお皿に盛り付けていく。は? と言う声を出した彼にもう一度社会人だから! といえば、彼はケイマをみた。
「おい、お前の相棒をどうにかしろ」
「いや、コウヘイ、残念ながらそれ事実なんだわ」
ケイマはそう言って慣れたようにカウンターの一席を陣取ってテレビをつける。テレビからは怪盗が行方不明の少女を送り届けたことや、盗みに入った場所の主人が捕まったことを知らせていた。
▽一章 夢駆け作者、怪盗団に入団する<終>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます