第24話 夢駆け作者、約束を取り付ける


 明月あかつき家とは。ミドリは内心で首をかしげる。リョウタは相変わらず目を白黒させていた。パニックに陥りかけている。ミドリは「まぁまぁ」と声をかけた。


「お兄さん落ち着いて」

「いや、これ俺たちにとって結構な問題というか……」


 明月家。俺たち。知っているけれど知らない。ミドリは頭の中にそれらの情報を刻む。これは一度返って別のアプローチから調べた方がいいだろう。


「リョウタさん、あまり長くいても迷惑なので、今日は一度帰らせていただきます」

「ごめんな……俺もちょっと色々整理したい」

「……できれば、でいいのですか」

「ん?」

「明日は土曜日ですし、実物を一緒に観に行きませんか? 今特別にお金を払えば観れるそうです」


 ミドリの促しにリョウタは素直に「いいよ」と頷いた。


「では、明日の十時にこちらを尋ねますので」


 ミドリはそう一礼して道場を後にする。リョウタはひらりと手を振ったが、ミドリが道場を出たところで気がついた。これはもしや――。



「デートじゃねぇか」

「ないない、私にとってはビジネスの付き合いの飲み会みたいなものだよ」


 ミドリはタブレットに向かいながらそう告げた。ミドリはそのまままっすぐアジトに帰宅した。3人がけのソファを独り占めしながら二振りの刀や明月家について調べていればケイマ達が帰宅したのである。一応ことのあらましを説明すれば、隣に割り込んだケイマが冒頭の言葉を告げたのだ。

 ミドリにとってはもちろんデートではない。リョウタが刀を直に見ればわかることもあるだろうという想像の上の約束だ。チケット代と交通費はかさむが、与えられているお小遣いで済む金額である。年下にお金を工面してもらうのがミドリにとって若干苦痛ではあるのだが、職を探せない今は仕方ない。閑話休題。


「とりあえず何がわかったんだ」


 そう言ってコウヘイは一人がけ用のソファに座り、長い足を組んだ。ハルがマグカップを器用に四つ持ってきたのでミドリは一人分の場所をあけた。


「まだ推測の域だけど、春告と秋告は正しい名前じゃない。恐らく、別の名前があるうえに、本来ならその刀は明月家にあるはずなんだと思う」

「アカツキ?」

「明月家なら確か日本の元伯爵家かなにかだぞ。五年前まで貿易会社を運営していたが、企業買収されている」

「詳しい」

「俺はビジネスや日本の有名な家についても学ばされたからな。当時は有名な貿易会社だったらしい。俺がこの国に来た時にはもう買収された後だったが」


 コウヘイはマグカップを受け取りながら近くに散らばった紙を見た。


「まぁ、端的に考えれば買収された際に刀の所有権が一緒に移ったんだろう。どうせ予告状も注目を集めるために偽造されたんだろう。義賊が出る幕ではない」


 コウヘイの言葉に、ミドリはちらりとケイマをみる。ケイマは悩んでいるようだった。



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