第23話 夢駆け作者、知らないキャラと会う


 近所の高校に通う美濃部みのべリョウタは悩んでいた。黒い学生服を着てアイスキャンデーを咥えた彼の視線の先には少女がいた。

 悩んでいる内容はこうだ。例えばである。本当なら中学校に通っていそうな少女を街の中で見かけた時、声をかけたら不審者になるのだろうか。かけるにしろ、学校行かないの? と尋ねるのはタブーなのだろうか。そもそも、こう不躾にじろじろとは言わないがチラチラ眺めるのはもうコレはアウトでなかろうか。

 そんなことを考えていれば、少女は美濃部みのべリョウタの家の前で立ち止まる。どこにでもありそうな一軒家である。しばらく眺めた少女に、美濃部みのべリョウタは口を開く。不審者にならないように心がけて。


「あの、ウチがどうかした?」

「あー、えーと、ここに来れば刀に詳しい人に会えるかなって思ったんですけど」


 困ったように少女――今西ミドリが告げる。リョウタはその言葉に目を瞬いた。刀に詳しいか否かといわれたら詳しい方だとは自負できる。しかし、少女がなぜそれを知っているか、なにをききたいのか分からなかったからだ。


「まぁー、うん、俺でよかったら話聞くよ。うちに上がるってのもアレだし、ついてきて」


 リョウタはそう言って、とまる。これでは不審者ではなかろうか。


「あっと、俺は美濃部みのべリョウタ。近所の高校に通ってる」

「……美濃部みのべ?」

「おう」

「ユカちゃんの?」

「なんだ、ユカの友達か? 俺はユカの兄貴だ」


 そこまで告げてリョウタはミドリをみる。妹を知るとなれば、やはり中学生なのでは、と。



 今西ミドリは現在困惑していた。

 朝ごはんをゆっくり食べたせいで遅刻しかけた三人を見送ったのはいい。朝ごはんの片付けをしたのもいい。そこまでは最近の日常である。しかし、急にケイマからのメッセージがきて偽物が盗むと宣言した刀について調べろと言われたのだ。ミドリがタブレットで検索をかけても特に目ぼしい情報はない。ただ簡素に実在するかはわからない刀とだけ記されているだけだった。

 そこで、なんとなく思い出したのが生徒会のうちの一人、美濃部みのべユカが創作の中では剣術の使い手だったということだ。だから、彼女に会えればヒントをもらえるのではと彼女の家の前にやってきたのだ。

 そもそも、その選択は失敗だった。何故なら美濃部ユカはケイマと同い年であり、ミドリがやってきた時間は学校に通っているはずなのだ。まぁ、その代わりにミドリは彼女の兄を名乗る人物に声をかけられたのであるが。


 彼によってミドリは由緒があるような日本家屋に連れてこられていた。しかしながら、ミドリが困惑している理由は日本家屋に連れてこられたことでも、目の前の青年――リョウタがミドリに対して学校に行かなくて大丈夫なのかとか心配していることでもない。


 ――美濃部みのべリョウタという存在に、今西ミドリはとても困惑していた。

 今西ミドリは『彼』を知らない。自分が作った創作キャラである美濃部ユカは一人っ子であったし、彼女のモデルであった同級生は妹がいるだけで兄がいるとは聞いたことがなかった。


「お兄さんはいけないと思うなぁ、学校さぼるのは」

「ええっと、引っ越してきたばかりで転入手続きがうまくいってないんです。ユカちゃんはこっちにいる友達を通して知り合いました」


 ミドリはそう言って苦笑いをする。リョウタはきょとんとミドリをみた。


「そうだったのか、大変だなぁ」

「いえ……ええっと、ユカちゃんのお兄さん? は刀について詳しいんですか?」

「まぁ剣術を齧ってるから多少はね。妹には負けるんだけど……ユカからじっちゃんが剣術道場をしてるって聞いたの?」

「いや……今日の占いで、探してる情報はMがつく名字の人に聞いてみて! ってあったので」


 どんな占いだ。ミドリは自分で言っておきながら内心で突っ込んだ。リョウタはリョウタで、そんな占いもあるんだなとか、占いに頼るほど困っているのかな、と考えている。


「刀を探してんの?」

「刀の情報を探してます」

「どんな?」

「春告と秋告という刀です」


 ミドリの言葉に、リョウタは「あー、それなぁ」と頭をかいた。何か知っているらしい。ミドリは言葉を続けた。


「インターネットで探したんですが、実在しない刀と書かれていて。お兄さんは知っているんですか?」

「うーん、俺が知ってるといえば知ってるし、知らないといえば知らないんだよ」


 そんな禅問答みたいな。ミドリはその言葉を飲み込み少し考える。ミドリが質問する前に、リョウタが口を開く。


「なんだろうなぁ、違うんだよ」

「違う」

「うまくいえないけど、その名前で検索しても出てこないとは思う」

「その名前で、ということは他の名前があるということですか?」

「いや……そうだけどそうじゃないみたいな」


 歯切れが悪い。とても。ミドリは困った顔をした。しかし、それ以上にリョウタは困ったような顔をする。


「ちなみに、なんでええっと」

「あ、今西ミドリです」

「今西さん?」

「はい」

「今西さんはなんでその二つを調べようと思ったの?」


 リョウタの言葉にミドリは目を瞬く。どうやら知らないらしい。仕方ない、とミドリは口を開いた。


「……怪盗ルパンズがクーリッドホテルに予告状を出しました。その二振りを盗むと」

「ん……ん!? クーリッ……? ……ホテル!?」

「はい。外資系のホテルですね。オープン二十周年を迎えるそうです。なんでもオーナーの持ち物だとか」

「いやいやいや、なんで明月あかつき家にないんだ!?」


 リョウタはそう素っ頓狂な声を上げた。


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