第12話 夢駆け作者、推測する


 ――静かな夜を騒がせる怪盗達。なんと、その怪盗集団はごく普通の中学校の生徒会役員でもあったのです。



 彼らの物語はそういう言葉が話の冒頭に入る物語だった。だから、ケイマが普通の生徒だと思っている彼彼女らは普通ではないのだが。


「いやいや待てよ、コウヘイはわかる。コウヘイはな。でも、菅俣すがまたはどこからどう見ても普通だろ!」


 ケイマはそう言って私に抗議する。私は苦笑いしながら冷蔵庫を開けた。中にはミネラルウォーターのペットボトルやジュース、私が買ってきた食材がちらほら並んでいる。


「私に言われてもなぁ……」

「お前に抗議しないで誰に抗議するんだよ」

「それもそうだ」


 この世界の作者は私だ。私に抗議するしかないか。とりあえず中からミネラルウォーターを取り出して、ムッとした表情を浮かべてソファに座る彼の前に差し出した。


「いや、確か本人も普通でいたいとか、普通でありたいのにとか言ってた気がするし、普通に暮らしてたら偶々夢で未来が見えるようになったとかそういう子じゃなかったかな」

「なんで裏社会がそんな情報知ってんだよ」


 ため息と共にソファに深く持たれたケイマは投げやりに告げる。そんなに彼女だったことが衝撃だったのか。私はその隣に座ってミネラルウォーターの蓋を開けた。


「それこそあの政治家が噛んでるとか、情報屋的なものが噛んでるとかじゃない?」

「……情報屋的なもの、ねぇ」


 項垂れている、というか、なんというか。私は首をかしげる。


「で、どうするの? 怪盗さん。事件は起こったわけだけど」

「ううーん……普通を望んでる菅俣には悪いけど、まとめて仲間にする。今回の一件で多分話が裏社会に回るからな。保護だ、保護! 俺たちが保護する!」


 彼はそう言って体を起こす。私はパチパチと拍手をおくる。うん、主人公っぽい言動だ。事実、彼はこの物語における主人公なのだが。


「そういや、ミドリ、コウヘイと何喋ってたんだ?」

「いや、作者だった私が思うのもなんなんだけど……」

「? ああ」

「なんで普通の学校に通って、三年間通ってるのかなって思ってさ」


 彼らの話を書いたのが彼らと同い年あたりだったから、そこを詳しく私は考えていなかった。だから、その理由を私は推測はできるが正しくはわからない。


「……ケイマはどうして通ってるの?」

「どうしてって日本でこの年齢だと通ってなきゃ面倒くさいからな。それに、俺の場合はアジトに近い学校があそこだし、この街は結構いろんな場所へのアクセスもいい」

「じゃあさ、なんで裏社会にいる二人が……一人は付き添いだろうけど……中村くんは普通の学校に通ってると思う?」


 私の問いかけにケイマは首をかしげる。


「どういう意味だ?」

「彼、裏社会の人でしょ? 普通の子供に紛れて無理に通わなくていいじゃん。しかも彼の場合、品があるんだから金持ち校とか進学校でもいいと思うんだよね。でも、なんで普通のそこら辺にあるような学校で、普通にしてるの?」

「カモフラじゃないのか?」


 それを言われたらそうだとは言い切れないのだけれども。ケイマはミネラルウォーターを一口飲んで私をみた。


「ミドリはどう思ったんだ?」

「普通の子供みたいな生活がしてみたかったのかなって」

「普通の子供みたいな生活? 普通がそんなにいいものか?」

「それは人それぞれなんじゃないかなぁ。私も元は非日常に憧れるタイプだったし、ケイマの言いたいことはわかるよ」


 私はぼんやりと何も映っていないテレビを眺める。


「でもさ、君もそうだけど、中村くんも世の中の普通から逸脱してるわけだ。あの子にとっての普通が同い年の子供にとって普通じゃないように、あの子にとっての憧れは私達にとって何気ない日常なんじゃないかなって。だから、同級生を連れて行ったら戻れなくなるよって言いたかったんだけどさ」

 でもそれを押し殺して行っちゃった。


 そう言って私は頬杖をついた。まぁ、なんて我慢強い子供なのでしょう。というよりは、彼はどうあがいてもその日常にたどり着けないと思っているのだろう。諦めたと言ってもいい。そんな大人みたいなことをしなくっても、と思ったが恐らく彼はそうするしかないのだ。きっと、他に選択肢がない。私は隣に座るケイマをみる。


「ねぇ、ケイマ、仲間にするために口説くときにさ、一瞬にまた学校で馬鹿やろうぜって言ってみてよ」

「……なぁ、それミドリが言ってみたらどうだ?」

「は?」

「俺が菅俣を助けに行くから、その間にコウヘイを説得してくれよ」

「私一般人なんだけどな? ……いやでもこれ私の夢ならなんとかなるか?」

「流石に身体能力はなんともならないんじゃないか?」

「えっ、じゃあどうするの?」

「大丈夫大丈夫、なんとかなるって!」


 ケイマはそうケラケラ笑って見せると私の背中をバンバンと叩いて立ち上がった。どこからともなくタブレットを取り出すと彼は何かを調べ始める。


「じゃあもう一人の殺し屋くんちゃんどうにかしてよ」

「コウヘイに雇われてんならコウヘイ説得したらいいじゃね?」

「くっそー、これで私が死んで目が覚めたらケイマのめちゃくちゃな話を書いてやる」


 私の言葉に彼は私をみた。そして、「続きを書いてくれんならそれはそれでいいんだよな」と苦笑いとも取れる表情を浮かべた。



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