第26話 夢駆け作者、探偵役と出会う(1)


 クーリッドホテルは埋め立てられた人工島を買い上げて作られたホテルだ。ホテルというよりは一種のリゾート地であり、島へ行くには専用の電車――通称クーリッドリゾートラインに乗りかえるか、線路の横を走る道路を車で走ることでたどり着く。もちろん、リョータがいる手前大人と偽って車に乗ることなど出来かねる。4人とリョータは大人しく電車に揺られた。ありがたいのは購入したチケットに電車のチケットが付いていたことである。指定された座席に座ることができるそのチケットがあれば、混雑している一般車両に乗らなくてもすむと言うわけだ。

 5人が指定された車両に乗り込めば、そこには思ったより人が少なく、そして年齢層が高い。室内も木目調で、どこか高級感があるアンティークな雰囲気の車内になっていた。一部の大人が煩わしそうに5人をみる。ケイマとコウヘイは堂々と通路を進み座席に着席する。ハルは車内をぐるりと見渡してからそれに続き、リョータもそれにつづいた。ミドリは扉から顔を出して車両番号とチケットに書かれた番号を一応確認する。

 あくまで、バイト代ぐらいで払えるくらいの値段である。子供が乗ってきた程度でこんなに怪訝そうな顔をされるだろうか。

 4人ボックス席であるため、ミドリは通路を挟んだ座席に座った。一応一緒のボックスに座る人に頭を下げればにこやかにわらわれたのだが。他の客人に急かされたのか、高圧的に言われたのか、車掌がチケットの確認にやってくる。まぁ、ミドリ達がキップを渡せば彼はにこやかに「ラッキーな少年少女諸君、良い旅を」とだけ告げて先程の客の方に向かった。


「ラッキー? なんだそれ」

「チケット手配したのはミドリだろう。何か知ってるか?」

「いや、何にも知らない」


 ミドリはチケットをみる。近所のコンビニで発券したそれは普通のチケットだ。


「なるほど、君たちは一般チケットの中に紛れ込んだ特別招待者5人かな?」


 ミドリの前の座席に座った女性が本で口元を隠しながらつげる。そのとなりに座った少年が「先生、特別招待者ですか?」とミドリ達に変わって尋ねた。


「海外童話で有名な『チョコレート工場の見学券』みたいなものだよ。一般チケットの中に数名分だけVIP対応を受けることができるチケットを潜り込ませていたらしい」

「ということはこちらはVIP席ですか」

「そう言うことです。おおよそ子供のお小遣いでは買える金額ではないとか」

「らしい?」

「私達も知人と編集者からチケットをもらったからね。正しい値段は知らないんだ。でも、VIP件を持つ人以外が購入しようとすれば十万円は超えるとか」


 その発言にリョータはチケットをみる。


「俺、運使い果たしてないかな……」

「それでいくと、チケットを買ったミドリが運を使い果たしてるよねー?」

「うわー、それはやだなぁ」


 ミドリはそう言いつつ、ケイマをみる。ケイマが何かしたのでは? とはミドリの考えであるが、ケイマは何もしていない。ケイマはミドリの前の席を座る女性をみた。


「なぁ、先生ってことは、あんた小説家かなんか?」

「おや? 家庭教師や教員かもしれませんよ?」

「いや、編集者って思いっきり自分で言ってただろ」

「編集者なら記者かもしれなくない?」


 リョータの言葉に、女性が「そうですね」とまた口元を手帳でかくしながら頷いた。ミドリはその姿に既視感を覚える。どこかで、見た気がする。どこかで、会った気がする。この感覚はケイマと会った時と同じだ。じっと見つめに見つめて、ミドリは「あ」と声を出した。向いた視線に、ミドリはなんでもない、と苦笑いして手を振る。彼女は不思議そうに首を傾げた。

 ミドリは彼女を知っている。彼女は推理小説作家だ。そして、その傍ら、少年を助手にして探偵をしている。その名前は。


「これも何かの縁でしょう。私の名前は環ユリ。この子は近所の飯塚サキくんです。よろしくお願いします」


 ニコリと笑って見せた彼女に、ミドリもまたニコリと笑っておいた。


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