第6話 夢駆け作者、氷の貴公子と出会う(1)


 中学生の授業が終わる時間ならば外出してもいいのではないだろうか。でも何かあったときにややこしいことになるんだよな、と思う。何故か来ていたのは同じ中学校の制服なわけであるし、多少なら学校に入ってもバレやしないのではなかろうか。

 授業中が終わるタイミングを狙って彼と同じようにエレベーターに乗り込んだ。とりあえず一階のボタンを押したらいいのだろうか。ボタンを押せばそのままエレベーターはぐんぐん上の階へ向かっていく。チン、と音を立ててエレベーターは止まり、小奇麗なエントランスから外に出た。



 私の通っていた通学路とは違う道のりであるが、ちらほらと帰っている学生を遡れば学校にはつくだろう。そのまま商店街を抜けて、住宅街を抜けて、大通りに沿って歩けば学校にたどり着いた。――現実では私が大学に上がるくらいに建て替わってしまった校舎であるが、目の前にある校舎は古いコンクリートでできた校舎のままだ。

 これなら大体目星はつくだろう。一足先に広がる下駄箱の近くで靴を脱ぎ、廊下をすすむ。三年生のクラスは確か6クラスだったはずだ。三年生がいる教室あたりを覗き込んでみたがそのどれの教室にも彼はいない。入れ違いだろうか、と考えていれば、おいと低い声が聞こえた。振り返ればそこには短髪の青年がいる。恐らくは眉間の皺が取れないタイプである。いや、恐らくは中学生ではあるのだろう。中学生の制服を着ているのを見ると。

 いや、見たことがある。既視感である。ということは、私が考えたキャラクターだろう。ちょうど思い当たる人物もいる。


「どうかしたのか?」

「いや、田中ケイマを探してて……」

「アイツなら生徒会室だろう。今日は生徒会の集まりがある」


 ああー、そんな設定だった。じゃあ生徒会に行くかな、と記憶をたどりそちらに向かうことにする。確か、今現在私がいる学生のクラス棟にあるのではなく、渡り廊下を渡った職員室の棟にあったはずだ。


「ありがとう」

「お前どの学年だ? 三年じゃないだろう?」


 眉間にシワを寄せた彼に、「なんでそう思うの?」と尋ねる。


「三年ならあらかた顔を知ってるが、お前を見たことがない。だが、アイツは後輩と親しくなるタイプではない」

「決めつけってダメだよ、オニイサン」


 また眉間にシワが寄る。彼は「それに」と口を開く。


「見たことがある気がする」


 その発言に私はケラケラ笑った。「ナンパかな?」と言えば彼はピシリと動きを止めた。眉間のシワがさらに深くなる。そういえば彼はコンビだった。同い年で暗殺者の従者がいたはずである。あまり怪しいことすると殺される気がする。


「冗談。私この学校に転入してくる予定だからさ、多分そっくりさんと会ったんじゃない? 人間似てる人が三人いるって言うし」

「この時期に転校生か?」

「まぁ急だけどね。田中ケイマがまぁ近所に住んでてちょっとした知り合いだし、学校の様子見に行きたかったから来ただけ」


 私の発言にそれで何か納得がいったのだろう。


「校内用のスリッパを履いてないのはだからか。生徒会室の場所がわからないんじゃないのか」

「適当に行ったらつくと思うから大丈夫。ありがとう」


 私は彼に手をひらりと振るとそのまま廊下を進む。流石に職員室の前を進むのは気が引ける。一階から行くかと思えば、「そっちじゃない」と突っ込まれた。振り返れば先程の彼がため息をついた。


「わからないなら素直に言え。どうせ俺も生徒会室に行くんだ。連れて行ってやる」

「世話焼きっていわれない?」


 私の言葉に彼はまた眉間にシワを寄せた。


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