夢駆け作者と登場人物~昔かいた登場人物とエンカウントしたら物語に巻き込まれました~

海波 遼

第1話 夢駆け作者、創作世界へ行く(1)



 静かである夜更けの街に、パトカーの音が鳴り響く。

 闇夜を割いて、五人組の怪盗たちは今日もいく。

 そんな物語が、私の中にあったのだ。

 もう、随分と遠い昔のことだけれど。




1


 私の名前は今西いまにしミドリ。仕事と家を往復するだけの毎日を過ごす私はいたって普通の会社員だ。いや、人はそれをもしかして社畜というのかもしれないが、それは違うと思いたい。マイルドに仕事人間といってほしいところである。朝から晩まで仕事。そして帰宅して眠る。休みの日は泥のように眠って昼からゲームや漫画を楽しむ。そんな生活を送っているからか、地元の友達も街から出て行ったからだというのもあるが、人と会う予定もなく疎遠になってきている。


 ――それなのに、これはどういうことだろうか。


 いつもの帰り道である。とっくに日は暮れており、人の通りもまばらになっている時間だ。いつもなら急いで最寄り駅から家に帰るのであるが、今日は少し違った。

 私に向かって、久しぶり、だなんて笑う人物が現れたのだ。彼は誰だろうか。ナンパというやつかもしれない。しかし、スーツを着こなしたその青年はどこか見覚えはある気がする。でも、誰だったかなんて思い出せない。同級生か何かだろうか。あいにく、昔の記憶は歳を重ねるごとき薄くなっていた。恐らくは消えてしまったものもあるだろう。

 彼を見て考える私を見て青年は落胆したようだった。いや、落胆と言うよりはあきれと言う方が正しいかもしれない。彼は頭をかきながら、これだからお前は、だなんて呟く。


「お前が! 中学生の時!」


 と、いうことは、だ。


「同級生ですか?」

「違う! いや、違わないらしいけど違う!」


 どこか動きがコミカルな青年だった。彼は頭を抱えた。同級生でないならなんだろう。彼は私の様子を見て、ああ、もうまじであの人が言うように忘れてやがんのか? とブツブツ呟く。私は申し訳なくなって彼を思い出そうとする。

 私が中学生の時。同級生以外に関わりがあっただろうか。クラブに入っていたため基本的に家と学校の往復だったはずだ。学校関係の繋がりはすくない。ならば、高校受験のために通った塾か、それとも習い事か。私も頭を悩ませる。そうこう私が考えていれば、彼はため息をついて私を見た。


「覚えてないんだな、俺を。俺たちを」

「俺たち?」


 俺たちとは。繰り返した私に彼はまっすぐな目で私をみた。何か意を決したように。そうして私の手を掴むとそのまま駆け出す。いきなりのことに私はえ? え? と困惑した声しか出せない。しかし、不思議と恐怖はなかった。彼は私の手を引いて住宅街をかけていく。

 全速力で走ったのなんか久しぶりだった。体力がもたない。息が荒くなる。彼はずんずんと先にすすむ。この道は知っている。中学生の時の帰り道だ。このまま進めば、間違いなく――。


「ちょ、ちょっとまっ、て、この先は!」

 

 ――長い下りの階段である。


 間違いなくこのままのスピードで行けば私は青年を巻き込んで転げるだろう。というか、階段から落ちてろくな着地もできずに転倒する姿しか浮かばない。制止を促すために私は後ろに体重をかける。しかし、そんな私の小細工をものともせずに彼はそのまま階段の手前で踏み切った。それに合わせて私の足も階段の手前で足を踏みきった。くるだろう衝撃に備えてギュッと目を伏せる。

 ――風が切る音がする。そうして、跳び箱の着地のようにすたん、と足が地面についた。どうやら私は転ぶことなく着地できたらしい。目の前の青年を起こってやろうと目を開く。しかし、目の前にいるのは青年ではなく少年だった。

 掴まれていた手がゆっくりと離される。入れ替わるタイミングなんかないはずだ。魔法なんか存在しない。なら、彼はどうやって。そこで私は違和感に気づいた。降りた階段の正面にあるはず家がない。最近ようやく立った新しいその家が空き地に戻っている。


「え?」


 これはどういうことだろうか。そう目を瞬いていれば、少年が口元に笑みを浮かべた。


「自分の服、見てみ?」


 少年の促しに私は服を見る。中学校の頃の制服である。


「は?」


 混乱する私を見て彼はケラケラと笑ってみせた。


「大人のお前は俺を忘れたかもしれないけど、中学生のお前なら俺を知ってるだろ?」

 ――なぁ、俺の作者さん?


 その言葉に、私の頭は真っ白になったのだけれど。いったいどういうことなんだ。



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