第37話 昼食会
お昼ご飯は雨貉という小さめの魔獣が獲れたので、同行者も居るしシンプルにBBQといこう。
水魔術で爆速血抜きを済ませ、解体用のナイフで捌いてカットした肉に串を打つ。死後硬直で肉が縮むのを防ぐために氷魔術で瞬間冷凍!
気がつくとティーレさんがなんか興味津々の顔で手元を覗き込んでいたので、「野営のご経験は?」と尋ねてみる。
「いや、無い。ただ、昼飯を持ち歩かずともいいのは身軽で気楽だなと思っただけだ」
少しびっくりしたような顔でティーレさんは答えた。急に話しかけたの、驚かれたかな?
「料理の経験があれば、あとは火の管理と食材の知識くらいを覚えればいいだけなので、そんなに難しくはないですよ」
「そんな訳あるか。あなたは先程から当たり前の顔をして水の魔術を使っているが、オレは魔術使えないんだぞ」
「え、そうなんですか。私てっきり……」
協会の用意した案内人なので、彼女も協会魔術師なのかと思っていた。若いけど、こっちでは12歳くらいから働きに出るのは割と普通らしいし。
「オレは単なる雇われの案内人だ。魔術師達は街に居付かないだろ。それで、オレみたいな駆け出しの薬草師なんかが道案内の仕事を受けるんだ」
「副業だったんですね。薬草師ということは、森へは普段薬草を採りに入るんですか?」
「ああ。ま、これだけ鬱蒼とした森だと碌な薬草は生えないがな」
「そうなんですか?」
なんか薬草ってこういう人の気配の無い大自然! に生えているイメージが勝手にあった。でもまあ、日本でも間伐とかいって、人が手を入れた里山の方が緑豊からしいしな……。
「ところどころ日光が差し込むところだけだな。ほら、あちこち突っ切ってきたろ、薬草の薮」
「ええっ、あれ薬草なんですか」
切り拓いて突っ切ってきた薮や茂み、この子めちゃくちゃ容赦なくぶった斬ってなかっただろうか。商売道具なのにいいんかそれで?
喋りながらも手を動かして、切り終えたアナグマ肉串をどんどん網焼きにしていく。いろいろ教えて貰ったお礼にと最初に焼けたものをティーレさんに渡すと、ぱあっと顔が輝いた。
可愛いなぁ。オレっ子ちょっと面食らったが……アリかもしれん。ギャップがえぐい。
そこからはそのままの流れで昼食交換会みたいになった。肉串と引き換えに、ティーレさんが持参したハーブとナッツのクッキーを貰って食べる。
塩気が効いてておつまみみたいだ。肉串も相まって、キリッと冷えたビールとかちょっと欲しくなってしまうような。
◆
昼食の片付けも終えて、そろそろ仕事の時間だと気合いを入れる。
ティーレさん曰く、森の中は日当たりが悪いせいか魔獣自体があんまりいないが、山に行くと急に強い魔獣が沢山出るとのこと。
「縄張り意識が強い種が多いから、奴らは森には入って来ない。もし何かに狙われたらオレは森まで逃げるからな」
「了解です。あ、じゃあ、この辺に氷の塔建てておくんで、逸れたらここに集合にしましょう」
氷の壁の応用で溶けない氷製の小屋みたいなものを作って、屋根からどでかい氷の柱を伸ばす。
中はちょっと寒いかもしれんが、安全確保シェルターを兼ねるってことで。
「…………、…………。」
他人より豊富らしい魔力にモノを言わせる形で出現させたその建物を、ティーレさんは無言で見上げ、それから物言いたげなその視線をこちらに向けた。
……あっ、なんか、怯えられている……?
その一瞬、本気で今しがた作り出した氷の塔を消そうかと思った。そんなんやってもなんも意味ないのでやらなかったけど。
子供に怯えられるのって、結構ショックを受けるもんなんだな……。
「えっと……ティーレさん?」
「あっ、ああ。驚いてしまって、その、悪かったな。では早速白棘蜥蜴の巣穴まで行くぞ」
恐る恐る声を掛けると、気を取り直したティーレさんは少し足早に歩き始めた。
気まずい気持ちで後をついていくと、数分もしないうちに木漏れ日が差し込むようになった。あたりが明るくなり、木立の向こうが急に拓ける。
森と山の境で空間が捩れてたりするんじゃないかと思うほど、景色が一変する。
アウレ山は、ゴツゴツとした黒い岩と、白っぽい岩、砂利、砂、そしてほんの少し露出した土、というような山肌をしている。
そして、ところどころにある裂け目のような部分から、白い煙が薄く立ち上っているのが見えた。
「え、……火山?」
「そうだが。ほら、あの裂け目だ。覗き込め」
ティーレさんに容赦なく背中を押され、煙が出てない裂け目に近づく。
すると、あと五歩くらい、という距離のあたりで、穴からなんか急に火柱が立ち上った。
「わぁ!?」
「おっ、当たりだ。あれが白棘蜥蜴の威嚇らしいぞ」
すわ噴火かと慌てふためいた私とは対照的に、ティーレさんは冷静にそんな解説を挟む。
なるほど、つまり魔術か。
案内人が説明できるからって理由で、白棘蜥蜴についてはほとんど情報を聞くことが出来てなかったが、火属性の魔獣だよくらい流石に言っておいてくれよ。
「氷の蔦よ」
挨拶のお返しに氷を裂け目に突っ込んでやると、割れ目からキャアアアアと甲高い悲鳴のような音が響く。
次の瞬間もう一度火柱が噴き上がり、溶けないはずの氷がドロドロ溶け落ちて消えた。
なるほど? 初めてみたが、流石の溶けない氷でも、魔術では打ち消されるのか。で、溶けたら水になるとかじゃなくて消えるんだな。化学とは全然違うわけね。
妙なタイミングで魔術についての新しい知見を得つつ、じゃあこれならどうだ、と風術に切り替える。
「風よ‼︎」
裂け目をごそっと範囲に収めて、
つまり、真空だ。これならどうよ。
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