スペーストラベラー


スペーストラベラー




 一通りこの星の詳細をリアースに尋ねた私はある結論に達していた。


「リアース、私の脱出ポッドのサーバーにアクセス出来る?」


『脱出ポッドのサーバーにアクセスしました』


「ポッドが今まで訪れた星の位置情報を使って、わかる範囲でいいから宇宙のナビを作っておいてくれるかな」


『かしこまりました』


「そしてさっきも話したように、この星の環境を出来るだけ守れる方法も考えておいて」


『かしこまりました』


 リアースにそう伝えてから、私は晴れやかな気分で家を出た。


 脱出ポッドへ戻ろう。


 そしてまた旅をしよう。


 ナビがあれば一度訪れた星へはまた行ける。


 あのイカとタコの二人は相変わらず戦っているのだろうか。


 クローン星のクローンは売れているのだろうか。


 オシャレな星に行ったら今度こそ観光したいし、小さなネズミたちも、カエルの王子の様子も気になる。


 私はさまざまな星で出会ったさまざまな宇宙人たちを思い出していた。


「おや、お出かけですか?」


 脱出ポッドに乗ろうとした時に声をかけられた。


 先ほどの人間が一人、こちらに近寄ってきた。


「いえ、私はこの星に住むのをやめました」


「ええっ!? どうして……」


「私はこんなに美しい星を自分たちの都合でめちゃくちゃにしたくないのです。この星を地球の二の舞にする気はない」


「なっ、めちゃくちゃだなんてそんなことは……我々はただ皆が住みやすいようにしてい……」


「わかっています。文明を発展させ住みやすくするためだとは。でも地球と同じことをしていては何も変わりません。地球のように自然を破壊し動物たちの住む場所を奪い、星を汚して傷つけたりしたくない。もう二度と同じ過ちを繰り返したくないのです」


「あっ……ちょっと……」


 何か言いたげな人間を残して私は脱出ポッドに乗り込んだ。


 人間は都合の悪いことはすぐに忘れてすぐに同じ過ちを犯してしまう生き物なのかもしれない。


 でもきっと、この人たちはリアースと共にこれから星を大切にしながらより良い環境を作っていくことが出来ると信じたい。


 そして全ての人々に忘れないでいてほしい。


 地球もこの星もとても美しかったということを。


 (さようなら……)


 私は脱出ポッドを発進させ宇宙へと飛び立った。


 もうしばらく永住するのはおあずけにしよう。


 この広い宇宙には幾千万の星がある。


 そのひとつひとつを見てまわるのもなかなかいいものではないか。


 それにリアースに作ってもらったこの宇宙のナビを埋めていくのも楽しいかもしれない。


 地球にそっくりのブルーの小さな星を見下ろしながら、これから出会うだろうまだ見ぬ星や宇宙人たちに想いを馳せた。


 また長い旅が始まるが、いつもと違って心は清々しいものだった。


 私は脱出ポッドと共にこの先もずっと、この広い宇宙を旅することになるだろう。


 そしてこれから出会う宇宙人たちに、私はこう名乗ることにしよう。


 「はじめまして。私はスペーストラベラーです」と。



           完






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スペーストラベラー クロノヒョウ @kurono-hyo

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