見えない星
見えない星
この小さな星に辿り着いてからかなりの時間歩き続けているのだが、まだ誰にも会っていない。
何か様子がおかしい。
普通の家も建っているし中を覗くとベッドもある。
食べ物らしき物や衣服らしき物など生活感は無いのだが何かの気配は感じるのだ。
(ちょっと気味が悪いな)
歩き疲れた私は諦めて次の星に向かおうと脱出ポッドの方へ戻り乗り込もうとした時だった。
「とうとう帰るのか」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
その辺を見ても誰もいない。
しかも私が驚くとその声の方も驚いている様子なのも何か変だ。
「オレの声が聞こえたのか?」
「はい、聞こえますけど」
「なんと」
「姿は見えませんが」
「ほう」
「あの、どういうことでしょう」
私はどこを見ていいのかわからないままキョロキョロとしながら話した。
「ここは彷徨える魂の星だ」
「彷徨える魂?」
「我ら宇宙に生きる全ての者たちの墓場とでも言おうか」
「はあ」
「この宇宙に未練がある者たちが集まって出来た」
「じゃああなたたちは幽霊、ということですか?」
「そうだ。オレも生きている時は地球人だった。同じ地球人だから声が聞こえるのかもしれない」
「なるほど。ではここにはいろいろな宇宙人がいるのですね」
「見えないだけでうようよとな」
「でもまたどうしてこんな星が」
「考えてみろ。幽霊になって自分の星でうろうろしていたとする。たまにオレたちのことが視えるヤツがいたらもうおしまいだ」
「おしまいって、すでに死んでいますけど」
「心にモヤモヤが残ったままあの世に連れていかれるんだぞ。一生モヤモヤしたままだ」
「はあ」
「だったらここで仲間とモヤモヤを忘れてしまうまで楽しく過ごしていたいのさ。それは人間だけではなくどんな宇宙人もみんな同じ思いみたいだ」
「そのモヤモヤを忘れられたら成仏出来るということですか」
「そういうことだ」
「あなたのモヤモヤは何なのですか?」
「オレのモヤモヤ?」
「はい」
「……オレのモヤモヤは……はて、何だったっけ……」
「忘れた?」
私がそう聞いてから男の返事はなくなった。
「……成仏、しちゃったか」
私は見えないだけでその辺にたくさんいるであろう者たちに頭を下げ脱出ポッドに乗り込んだ。
(なんだったんだ)
本当に幽霊の星だったのかは知るすべもないが、ここには住めないということだけはわかった。
見えない者たちと居てもそれはひとりぼっちなのと変わらない。
ここに住む時、それは私が死んでからになるのだろうか。
いつか戻ってくるかもしれないこの星にさよならを告げ、私はちゃんと見えている現実を探すためにまた旅を続けるのだった。
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