雨の星

雨の星




 (傘はあったかな)


 この星に入ってからというもの脱出ポッドのワイパーはずっと動き続けていた。


 しばらく待っても一向にやみそうもない雨。


 傘は諦めて私は雨の中へと飛び出してみた。


 森のようにたくさんの木が生い茂っている。


「雨はお好きですか?」


「えっ?」


 雨の音の中から声が聴こえた。


 振り向くとちょうど自分と同じ目線の高さに黄色い傘だけが浮いていた。


「えっと……」


 誰が話したのかと辺りを見るも傘以外に何の姿もない。


「もしかしてこの星は初めてですか?」


 そう言うと傘は閉じたり開いたり上下に動いたりしながら私の真上に来た。


「傘……あなたが喋っているのですか?」


 よく見ると傘の柄の部分に口のようなモノが付いていた。


「はっはっ、ワタシたちのことを傘と呼ぶのは地球人、つまりあなたは人間ですね」


「はい」


「ここは雨が降り続ける星、あなたは雨はお好きですか?」


「雨は……部屋の中にいる時はいいのですが、外に出るとなるとちょっと憂うつになりますよね」


 そう言うと傘は驚いたようにくるくると回り出した。


「なんと! 外に出てカラフルで美しいワタシたちを見たくないと」


「いえ、そういうことでは……」


「ああ、思い出した! 聞きましたよ。地球人はワタシたちを透明にしてしまう、ワタシたちを丸裸にして楽しんでいるそうだってね。なんと恐ろしい」


「透明って、ビニール傘のことですか? 別にあなたたちを丸裸にしているわけでは……」


「ビニール傘!? 汚らわしい!」


 気のせいか黄色い傘がだんだんと赤い色に変わっているように見えた。


「あの、本当に人間は傘のことをそんな目では見ていませんので」


「ではどうしてワタシたちにそんな酷いことを?」


「酷いだなんてとんでもないです。ただ透明の方が視界がよくて、それに突然の雨の時に便利な安い傘はみんな透明なのです」


「……ふーん、視界がねえ」


「あの、ここはずっと雨が?」


「ええ。雨が止むことはありません。だからワタシたちはこのように進化したのかもしれませんね。ついてきてください」


「はあ」


 言われた通り傘の進む方へと一緒に歩き出した。


「ほら、綺麗でしょう?」


 木々の間を抜けると眼下に草原が広がっていた。


「わあっ」


 そこには赤や青、黄色にピンクにオレンジにと色とりどりの傘がひしめきあっていた。


「カラフルでいいですね」


「そうでしょう? 傘はこうでなくっちゃ」


 どこか嬉しそうにしているように見えた傘の機嫌がいいうちにと私は傘に別れを告げた。




 脱出ポッドに乗り込みびしょ濡れになった体をふいてひと息ついた。


 本当にずっと雨が降り続いている。


 (止まない雨は……あるんだな)


 そんなことを思いながら脱出ポッドを発進させた。


 確かにまだ地球があった頃、雨の日はビニール傘をさしている人がほとんどだった。


 こんな風にカラフルで綺麗な傘ばかりだったら雨の日の外出ももっと楽しくてもっと好きになれたかもしれない。


 今さらそう思っても遅いが、いつか地球と同じような星で暮らせたら綺麗な傘を買うことにしよう。





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