ネコの星


ネコの星




 地球に巨大隕石が衝突し、私は脱出ポッドで次に住む星を探していた。


 脱出ポッドはランダムで酸素がある星を目指す。


 つまり何処へ辿り着くのか、どれくらいの時間がかかるのかはわからない。


 久しぶりに脱出ポットが着陸のサインを出した。



 (美しい……)


 ポッドからおりた私が見たものは、何とも美しい草原だった。


 暖かい風が吹き、久しぶりに嗅いだ草花の香りに胸がいっぱいになった。


 懐かしかった。


 しばらく風と香りを味わってから、人か生命体か、この星の住人を探し始めた。


 遠くの方に建物らしいものが見えたので、そこを目指すことにした。



 少し歩いて、私は何か妙だと感じた。


 静かすぎる……。


 聴こえるのは風と風に揺れる草花の音だけ。


 それに先程から眠たくて仕方なかった。


 身体に力が入らない。


 私は座りこんでしまった。


 意識が薄れていくのがわかった……。



 その時、肩を抱かれ口の中に水のようなものが入ってくるのがわかった。


「大丈夫か? しっかりしろ!」


 頬を叩かれ、口の中のものを飲み込んだ。


 目を開けると…………ネコがいた。


「わっ」


 ネコだ。


 顔はネコで体は人間のようだった。


「よかった、気がついたようだな」


「……いったい何が?」


「この草原には人間が幻覚作用を起こす植物があるんだ」


 トラ模様のネコが話してくれた。


「幻覚?」


「猫で言うところのマタタビみたいなものだ」


 なるほど……。


 振り返ると私は脱出ポッドの前から一歩も動いていなかった。


「じゃあ建物みたいなものが見えたのは?」


「幻覚だな。この先はホラ、崖だ」


 トラ猫が指差す方を見ると、確かに建物などは無く、断崖絶壁だった。


 ゾッとした。


 肩を支えてくれていた若い三毛猫が私を立たせてくれた。


「解毒剤を飲ませました。即効性はありますが、持続性はありません。しかもこれが最後でした。何しろ人間用ですので。一つ見つかっただけでもあなたは運が良かった」


「そうでしたか。なんとお礼を言ったらいいのか……。本当にありがとうございました」


 私は二匹のネコに頭を下げた。


「この星は人間が立ち入ってはいけない、ということですね」


「そうだな。俺たちの中には人間を毛嫌いしている者もいる。申し訳ない」


 トラ猫がいいネコでよかった。


「それでは私はこれで失礼します。ありがとうございました」


 私は脱出ポッドに乗り込んだ。


「お気をつけて」


 三毛猫が笑顔で手を振ってくれた。




 宇宙に飛び立った。


 昔、誰かに猿が住む惑星があるとは聞いていたが、まさかネコの星があるとは思わなかった。


 (ネコ、可愛かったな……)


 マタタビのような植物のせいか、解毒剤のせいか、まぶたが重かった。


 マタ、タビが始まる……。


 遠のく意識の中、変なダジャレが頭の中に浮かんでいた。





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