ギャンブルの星


ギャンブルの星




 地球が巨大隕石の衝突により滅亡し、脱出ポッドで宇宙の様々な星を彷徨っている私が今いるのは浜辺だった。


 脱出ポッドのドアを開けた瞬間、懐かしい海の潮の香りがした。


 (ん?)


 波打ち際に何やら赤い物がたくさん見える。


 目の前まで行ってそのうちの一つを拾い上げた。


 赤い物はどうやらボタンのようで「PUSH」と書かれていた。


 私は何のためらいもなくそれを押した。


 ゴゴゴゴゴ……という音がして水が吸い込まれたと思ったら海の中に巨大なビルが現れた。


 ビルの入り口まで行くと、ドアにも赤いボタンが付いていた。


 ボタンを押すとドアが開いた。


 中にいたのは顔が魚っぽい、まるで半魚人のような人たちだった。


「ようこそいらっしゃいました」


 スーツを着た半魚人は礼儀正しかった。


「地球から、ですよね?」


「はい。お邪魔します」


 中はオフィスビルのようで無機質な感じがした。


「数あるボタンの中からよく私たちを選んでくださいました。あなたは運がいい」


「え?」


「私たちは地球人と仲良くしたいと思っておりますが、なかにはそうでない者もいますからね」


「ではあのボタンは……」


「はい。ボタンごとに違う宇宙人がそれぞれ違う建物に住んでいます。何が出てくるかは誰にもわかりません」


「どうしてそんな事を」


「え、だって、ワクワクドキドキしませんか? 押す方も押される方も」


「は?」


「アトラクションのような感じですよ」


「はあ……」


「宇宙人のなかには補食が目的の者たちもいます。彼らにとってはいつ獲物が罠にかかるか、それはもう楽しみで仕方ないでしょうね」


 私は背筋が凍った。


 もし違うボタンを押していたら……。


「あなたもこの星に住んでみますか? 空き物件もいくつかありますよ」


「空き物件……」


「ええ。でも空き物件がどのボタンかは誰にもわかりませんけどね」


 そう言うと半魚人は大笑いしていた。


「遠慮しておきます。そんな命がけのギャンブルは私にはできそうもありません」


「あははは、そうですよね。いやいや失礼しました」


「いえ、教えていただいて助かりました」


 私はそれじゃあと言ってこのビルを出ることにした。


「……そういえば、なぜボタンなのですか?」


「ああ、それですか。誰でもボタンを見たら押したくなるでしょう? 人間も我々宇宙人も同じですよ」


「まあ、押しちゃいますね」


「でしょう? 今後はお気をつけください」


「わかりました。ありがとうございました」



 外へ出て改めて浜辺の大量のボタンを見た。


 (本当に運がよかったな……)


 急いで脱出ポッドに乗り込みこの星から飛び立った。


 


 (むやみにボタンを押すのはやめよう……)


 そんな自覚はなかったが、まだ地球で生活していた頃、よくテレビのリモコンのボタンをパチパチ押したり、バスのボタンを押したい衝動にかられたことを思い出していた。


 懐かしい気分に浸りながら、また次の星までの眠りについた。





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