青い星


青い星




 ここは地球に似ている星だった。


 大きなビルやマンションは無いものの、民家や道路、学校や公園、レストランやコンビニ的なお店もある。


 地球でいうと少し昔の田舎に来たかのようなそんな懐かしい星だった。


 ただ違うのは木や草の色だ。


 葉っぱがすべて真っ青だった。


 緑ではなく青……。



「いらっしゃいませ」


 レストランに入って窓際の席についた。


 やはりメニューの字は読めなかった。


「コーヒーをお願いします」


「かしこまりました」


 言葉も通じるし、見た目も地球人と何ら変わりはないように見えた。


「あの……地球人、ですよね?」


 コーヒーを持ってきたウェイターのお兄さんが話しかけてきた。


「はい。地球から来ました」


 お兄さんは嬉しそうな顔をした。


「あ、握手してもらってもいいですか?」


「え? あ、はい……」


 わけがわからないまま差し出された手を握った。


「ありがとうございます!」


 お兄さんは丁寧に頭を下げた。


「あの……どういうことでしょうか?」


「あ、失礼しました。この星の者はみんな地球に憧れているのです。星全体で地球のまねをしています。格好も地球人のまねです」


「はあ……」


「その昔、この星に立ち寄った地球人が地球の写真をくれたそうです。それを見たこの星の学者が地球に一目惚れをして地球のまねをするようになったそうです。青くて美しい地球の」


「へえ……」


「この星は今でもその想いを受け継いでいるのです。地球は私たちの憧れです」


「そうでしたか」


「ここにはどれくらいの滞在予定ですか?」


「実は、永住先を探してまして。ここは地球に似ていて住みやすそうに見えますが、どうですか?」


「永住ですか? それはありがたいです! 地球のことをもっと教えて頂けるのですよね?」


「私で良ければ構いませんが」


「よかったです。ちょうど青いスプレーが切れるところで、作ろうと思っていたところなのです。もっと地球っぽい色にしたくて。どうやったら地球のような青い色を出せるのでしょうか? やっぱり何色も混ぜた方がいいですよね?」


「え? 青いスプレー?」


「はい。木や葉っぱに振りかけるスプレーです。この辺りは建物がありますが、他の場所は草原です。青色の調合が難しくて」


「あの、地球を見たことは?」


「ええ、古い昔の写真で。青が豊かで」


「……あれは海の色です」


「うみ? うみという色ですか?」


「いえ、海はご存知ないですか? 海水がたくさんあるところです。陸地ではないところ」


「かいすい?」


「あの、パソコンとかネットとかはないのでしょうか?」


「ぱそこん? ねっと?」


「なるほど……では水がたまっている場所はありますか?」


「水ですか? 私たちは水が苦手なのです。この星では水と呼べるものはこのコーヒーだけです。地球人に教えてもらったコーヒーです」


「コーヒーをいれる時の水はどこから?」


「え? これは缶の中に入っているコーヒーです。昔の地球人が大量に置いていったそうです。残りあと三本です」


「……では、あなたたちは水は飲まないということですね」


「飲むなんてとんでもない。自殺するようなものです。飲むどころか触れただけでも体が溶けてしまいます」


「そうでしたか。やはり私はここに住むことはできないみたいです。地球人は水がないと生きていけません。残念です」


「そんな……」


「地球の青は海水、つまり水の色です。木や葉っぱは美しい緑色です。スプレーで青くするなんてもったいないと思いますよ」


「そうでしたか。我々が間違っていたのですね。色々とありがとうございました」


 こちらこそとお礼を言って、そのままコーヒーは飲まずにレストランを出た。



 脱出ポッドに乗り込み高いところからこの星を見てみた。


 なるほど、草原がたくさんあって全部青色に染められている。


 (なんか、草原に申し訳ないな……)


 昔とはいえ地球人の一枚の写真のせいで青色にされた草原に心の中で謝った。



 それにしても、これほど文明が発達していない星もまだあるのかと驚いた。



 地球が消滅したことは知らせない方が彼らは幸せだろう。



 複雑な想いを抱きながらまた長い旅路についた。




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