大きい星


大きい星




 脱出ポッドを降りると目の前に大きな柱のようなモノが二本立っていた。


 触ってみると柱にしては柔らかい。


「ワハッ……」


 突然上の方から声が聞こえた。


「ヒッヒッ、くすぐったいよ」


 声と同時に柱が宙に浮いた。と思ったら脱出ポッドギリギリの場所にドスンと降りてきた。


 振動でポッドも自分も一瞬飛び上がってぐらついた。


 上を見上げると、大きな柱だと思ったモノはどうやらここの住人の足のようだった。


「すみません、お邪魔してます」


 私は大声で叫んだ。


「ん? ああ、なんだ、小人さんか」


 声の主はゆっくりとかがんでくれた。


 ようやく顔が見えた。


 体もだが顔もまた大きくて真ん中に大きな目が一つあった。


 目の前で話されると息がかかって強風にさらされているかのようだった。


「ここは巨人の星でしたか」


 後ずさりしながら聞いた。


「ああ、そう呼ばれてるみたいだね。知らずにこの星に来たの?」


 声も太く、頭にガンガンと響いてくるため耳をふさいだ。


「はい。知らずにたどり着きました。すぐに出発します」


「ち、ちょっと待って。お願いがあるんだけど」


「……何でしょうか」


 一つ目の巨人は恥ずかしそうにしながら言った。


「ちょうど背中がかゆかったんだ」


「は?」


「……背中、かいてくれないかな?」


 そう言うと巨人はうつぶせに寝転んだ。


「いいですけど」


「さあ、乗って乗って」


 言われるがまま巨人の腕を伝い背中によじ登って真ん中あたりに到着した。


「この辺ですか?」


 適当な場所を爪でこすってみた。


「あはは、くすぐったいよ。もっと力を入れて」


「はあ……」


 これ以上力を入れると自分の指がもたないので、立ち上がって足で地面の土を掘るように激しくこすった。


「ああ、そこそこ。気持ちいいよ、ありがとう」


「はい」


 地面、いや、背中をこすりながら周りを見ると、大きな建物がいくつか建っていた。その回りは森や湖もあって、大きいというだけであとは普通にのどかな村だった。


「ここはいい所ですね」


 気持ちよさそうに寝転んでいる巨人に話しかけた。


「そうでしょう? いい所だし、僕たちはみんなおとなしくていい巨人なんだよ。なぜだか僕たちは怖がられてるけどね」


「巨人といえば、食べられてしまうんじゃないかと思ってしまいますからね」


「僕たちは人間も動物も食べたりしないよ。木の実や果物を食べてるんだ。意外と少食だし」


「へえ」


「ただ歩いただけなのに町を破壊したとか言われるし。小さすぎて下が見えなかっただけなのにさ」


「はは……。あの、もういいでしょうか。結構疲れてきました」


「あは、ありがとう。助かったよ」


 私は巨人の背中からまた腕を伝って下へ降りた。


 巨人はゆっくりと体を起こした。


「お礼に果物をあげるよ。今ちょうどお昼ごはんにしようと思ってたんだ。好きなだけ持っていっていいよ」


 巨人は後ろを指差した。


「はあ」


 私は大きな巨人の後ろへと移動した。


「わあっ」


 そこには家一軒分くらいの果物や木の実が山のように積み上げられていた。


「僕はもう少し果物を集めてくるね。じゃあね」


 巨人は立ち上がってゆっくりと森の中へと歩いて行った。



 (少食って……)


 巨人の体の大きさを考えたら、これは少食と言えるのだろうか。


 私は果物の山からバナナみたいなモノを一房頂いて脱出ポッドに乗り込んだ。



 一つ目の巨人は人間を食べたりしないとわかっただけでもよしとしよう。



 宇宙に飛び立ち、疲れてガクガクしている足をさすりながら、バナナを食べた。





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