寒い星


寒い星




「寒っ……」


 肩をすくめた。


 寒い、とにかく寒かった。



 脱出ポッドから出た私はあまりの寒さにその場から動けなくなっていた。


 (体が凍りそうだ)


 骨まで凍ってしまったのではないかと思うほど寒さで体がきしんだ。


 目だけで辺りを見渡した。


 雪が降っているわけでもなく、霜もなければ氷もない。


 いたって普通の砂漠に見える。


 (ん? 砂漠……?)


 寒さで固まった体でなんとか座りこみ、足もとの砂をつかんだ。


「それは砂ではありませんよ」


 背後から話しかけられた。


「パッと見は砂に見えますが、それは空気中の水分が凍って落ちてきたものです」


 振り向くと黒の全身タイツの人がいた。


 顔は目と口の部分に穴があいているフェイスマスクだった。


 まるで銀行強盗の犯人だ。


「これをどうぞ」


 全身タイツの人は持っていた毛布のようなものを私にかけてくれた。


「暖かい……」


「それはこの星で作られている観光客用の防寒具です」


「助かりました。ありがとうございます」


 どんどん体が暖かくなる。


「あの、じゃあこれは全部氷、ということですか?」


「全部氷です。小さな氷。あ、ほら。少し温度が下がったから……」


「わぁ」


 視界の全てがキラキラと輝いていた。


「キレイ……」


「温度が下がると空気中の水分が凍って、こうやって氷になって落ちてくるのです。キラキラと。それが積もって、一見砂漠に見えます」


 私は砂のような氷をつかんで手のひらにのせてみた。


 よく見ると確かに小さな氷だ。


 ダイヤモンドのようにキラキラと輝いていて、とても美しかった。


「持って帰れませんよ」


「えっ?」


「知らずにここへ来た者たちは皆さんダイヤモンドだと勘違いなさって大量に袋につめて持って帰ろうとします。まるで銀行強盗のように」


「はぁ」


「ところがただの氷ですから、船に乗せたとたんとけて水になるだけです」


「はい。あの、さっきから気になっていたのですが、その格好は……」


「ああ、これはこの星で作られた防寒着です。こう見えてすごく暖かいのですよ」


「へぇ。ではこの星の人たちは皆さんそれを?」


「もちろん、みんなこの格好です」


 みんな同じ格好で見分けがつくのか。


「お土産用にお売りしてますよ。買っていかれますか? 色もたくさんご用意しております」


「いやぁ、買っても私には必要ないかと。申し訳ありません」


「そうですか? 私の記憶だと、地球人がこれを気に入って大量に買って行ったと……」


「それは多分一部の特殊な方々だと思います」


 まさかこの星のお土産が犯罪に使われていたとは。


 (早く次の星へ行こう)


 私は全身タイツの人に毛布を返してお礼を言った。


「お邪魔しました。では失礼します」


「ぜひ、またいらしてください」




 脱出ポッドに乗り込み飛び立った。


 星全体がキラキラと輝いていた。


 全てがキラキラと輝く様はとても美しかった。



「うわっ」


 あの砂のような氷がブーツに付いていたのか自分の足もとがびしょびしょに濡れていた。


 (本当にダイヤじゃなくて氷だったんだな)


 あの全身タイツの人はなぜ銀行強盗の事を知っていたのか。


「わぁ」


 気がつくと全身がびしょびしょになっていた。


 まるでシャワーでも浴びたかのようだった。


 (あの全身タイツ、一着くらい買ってもよかったかな)


 一瞬頭をよぎったが、買っても絶対着ないと確信した。



 暖かいシャワーを浴びて気をとりなおし、また次の星へと旅がはじまる。





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