王子の星


王子の星




「うわぁ~」


 なんとも美しい星にたどり着いた。


 脱出ポッドから出ると、そこはまるでおとぎ話の中にでも入り込んだかのような素晴らしい景色だった。


 鮮やかな緑色の森にサラサラと流れる小川。


 西洋風のお城のような大きな家の回りには真っ赤な薔薇が咲いた垣根が一面に茂っていた。


 庭を散歩していると大きな家の中から人が出てきた。


 いや、背格好は人だったが、顔や手足はどう見ても緑色のカエルだった。


「これは珍しい。人間ですか」


「あ、すみません、お邪魔しています」


 タキシードを着たカエルは微笑んだように見えた。


「この星は本当に美しいですね」


「ありがとうございます。まるでおとぎ話みたいでしょ?」


「ええ、本当に」


「二百年ほど前です、この星に私たちのご先祖様のカエルがたどり着いたのは」


「あのカエル、ですか?」


「ええ、あのカエルです。あの小さなカエル」


「へぇ……」


「ただし、そのカエルは普通のカエルではありませんでした。そのカエルは魔女に魔法をかけられ、カエルの姿にされてしまった王子だったのです」


「王子……」


「はい。それも一匹だけではありませんでした。噂では五十匹もいたとかいないとか」


「みんな、王子……?」


「はい。みんな魔法をかけられた王子です」


「はあ」


 それだけの数の王子がいったい魔女に何の怨みをかったのだろうか。


「王子たちはもとの姿に戻る方法を探しましたが結局みつからなかったようですね」


「そうですか」


「二百年かけてやっと今の私の姿にまで進化したところです」


「それは……ずいぶんと大きくなりましたね」


「まあ、もとは王子ですからね」


「王子……」


「カエルは平気ですか?」


「実はカエルは苦手でして」


「ならばこの星には居られないですね。カエルと一緒のベッドで寝るのは無理でしょう?」


「無理、ですね。……すみません」


「いえ、大丈夫です。皆さんそうおっしゃいますから」


「でもここは本当に美しい」


「はい。言っても王子ですからね。美しい王子は美しい所に住んでいないといけませんから」


「はぁ」


 ちょっと何を言っているのかわからなかったが、久しぶりに美しい景色を見れただけでよしとしよう。


「それでは私はそろそろ失礼します。お邪魔しました」


「それではまた。あ、あと何百年かたった後には王子に戻っているかもしれません」


「……ええ。そうなることを私も祈ってますね」




 私はカエルにさようならと言って脱出ポッドに乗り込んだ。



 (王子、王子って……)


 本当に何百年後かには進化して王子になるのだろうか。


 確かめたいけど私に確かめることはできない。


 ひょっとしたらキスをすればもとの姿に戻るのでは……。


 (うっ)


 想像すると気持ち悪くなってきたので考えるのをやめた。


 彼らがいつか、もとの姿に戻れますように。





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