小さな星


小さな星




「小さい……」


 脱出ポッドからおりた瞬間、私は思わず声に出してしまった。


 とにかく全てがミニチュアサイズで、足もとにあったミニカーのような自動車を踏んでしまうところだった。


 膝ぐらいの高さの立派な家がたくさん建っている。


 住宅地なのか。


 目の前の家の中からこれまた小さな小人が二人出てきて私を見上げた。


「あ、すみません。すぐ出ていきますので」


 私は二人に声をかけた。


「……」


 何か話しているようだったが、聞こえなかったので私はしゃがみこんで顔を近づけてみた。


「もしお急ぎでなければお願いがあるのですが」


「はあ、何でしょう」


「この家の裏に大きな岩山と林があります。もしよろしければそれを取り除いてもらえないでしょうか」


「はあ」


 立って家の裏手を見てみると、普通に石と雑草が生えているだけだった。


「これをどかせばいいんですね?」


 私は石を拾って雑草を抜いた。


「オォー」


 二人は拍手をしてくれた。


「ありがとうございました」


「これくらいなんでも……」


 なにかくすぐったくて足もとを見ると、いつの間にかたくさんの小人たちが集まっていた。


 私はまたしゃがみこんだ。


「うちにも森があるのです」

「うちにも岩山が」

「うちにも……」


 皆がいっせいに話し出した。


「ち、ちょっと待って下さい。わかりましたから、順番にいきましょう」


 私は手前から順番に家をまわり、ひたすら石と雑草を取り除いていった。



 ひととおり草むしり(?)が終わった。


 意外と疲れたので座って休んでいた。


「これどうぞ」


 小人がおちょこぐらいの大きさのバケツのようなものを持ってきてくれた。


「お茶です」


「あ、ありがとうございます」


 私はそれを受け取って飲みほした。


「ハァ……美味しいです」


 バケツを返すとその小人は恥ずかしそうに走って去っていった。


 (よく見ると可愛いな)


 草むしりに夢中で気にしなかったが、小人たちの顔はネズミのようでもあった。


「あの、本当にありがとうございました。皆喜んでいます」


 最初の家の小人がお礼を言いにきた。


「お役に立てたようでよかったです。あの、一つ聞いてもいいですか?」


「はい、もちろんです」


「あなたたちは私のような巨人は怖くないのですか?」


「ええ、怖くありません。この星に立ち寄った巨人の方々は皆さんあなたのようにお手伝いをしてくれました。もともと何もなかったこの土地をまず綺麗に舗装してもらいました。次に来た巨人に区画整理してもらい、次には家を建ててもらいました。その次は道路と車です。それで充分なのですが、岩や森林がすぐにまた邪魔になります。なので定期的にここへ誰かが立ち寄るように救難信号を出しています。今回はたまたまあなたの脱出ポッドが信号をキャッチしてしまったのかと」


「えっ……」


「申し訳ありません」


「……いえ」


 私はそれじゃあと言って脱出ポッドに乗り込んだ。




 (なんだか騙された気分だ……)


 だんだんと腹が立ってきたが、誰かの役にたてた事はいいことだと自分に言い聞かせ、気持ちを静めた。



 いったいいつになったら地球のように人間が住める星が見つかるのだろうか。


 (やっぱりネズミはずる賢いな……)


 ほどよい疲れで私はすぐに眠りについた。




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