夜の星


夜の星




 この星では日中に外へ出る事は出来ないらしい。


 太陽に近いため、強い紫外線にあたると人は一瞬で全身に火傷をおってしまうそうだ。



 太陽が沈み暗闇になると同時にどこからともなく人があふれ出てきて一日が始まる。


 私も観光がてら散歩してみることにした。


 お腹が空いていたのを思い出し、少しお洒落なカフェに入った。


「いらっしゃいませ」


 青白い顔の店員がメニューを持ってきてくれたが文字はまったく読めなかった。


「観光ですか?」


「地球という星から来ました。ご存知ですか?」


「地球ってあの美しい星ですか?」


「美しい……」


「子供の頃、本で読んだことがあります。ブルーのとてもキレイな星ですよね?」


「この星の夜もキレイですね。全てがライトアップされていて、キラキラしています」


「そうでしょう? 太陽熱のおかげで電力は無限大ですからね」


 私は店員にコーヒーを頼んだ。


 日中外へ出られないという事を除けば地球とほぼ変わらないなと思った。


「どれくらいの滞在ですか?」


 コーヒーを持ってきた店員がまた話しかけてきた。


「実は、永住しようかと考えています」


「えっ?」


 店員さんの青白い顔がさらに青くなったような気がした。


「どうかしましたか?」


「ご存じないようですね」


「何を?」


「この星はもう限界が近づいているのです。研究者の話しによると太陽熱が核に溜まりすぎていて、いつ爆発してもおかしくない状態だそうです」


「そんな、また……」


「また?」


 私は深いため息をついた。


「地球もです」


「地球も? 太陽熱ですか?」


「いえ。巨大隕石の衝突で地球はなくなりました」


「そうでしたか。どうやってここに?」


「地球人は温暖化や放射能や地震などのあらゆる災害から身を守るために、全員が脱出ポッドを持っていました」


「それで脱出を?」


「はい。おそらくもう何ヵ月かは彷徨っているかと」


「それは大変でしたね」


「いえ。あなた方はどうするおつもりですか?」


「僕たちも来週から順に宇宙船に乗せられます。だからあなたも早く脱出した方がいいと思いますよ」


「わかりました。お話しできてよかったです。ありがとうございました」


 私は席を立った。


「いえ。あ、今度は違う星でまた会えるかもしれませんね」


「ええ、そうですね。では、また」


「お気をつけて。ありがとうございました」



 カフェを出てすぐに脱出ポットに戻った。


 また長い旅が始まる……。


 次にたどり着く星はどんな所だろうか。


 期待を胸に抱き、この星から脱出した。


 (さようなら)


 宇宙から星を眺めた。


 暗闇の中で、まるで宝石のようにキラキラと輝いているこの星を。



 私はふと、この星の名前を聞くのを忘れた事に気づいた。


 どこかの星であの店員に会ったら聞いてみよう。


 そして私はまた深い眠りについた。



 

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