おいしい星


おいしい星




 目が覚めると脱出ポッドはどこかの星に着陸していた。


 体を伸ばしながらポッドを降りるとすぐにいい香りが漂ってきた。


 (そういえばお腹すいたな)


 周りを見てみるが、草や木々が生い茂っている森のような場所で、食べ物らしきモノは見当たらない。


「わあっ。なんでこんなところに人間が?」


 キョロキョロしていると木の影から髭を長く伸ばした小さいオジサンが出てきた。


「あ、お邪魔してます」


 私は頭を下げた。


「脱出ポッド……。ということはまた地球人か」


「あ、はい。私でも住める星を探しています」


「最近よく来るんだよね、地球人がさ」


 オジサンはなにやら迷惑そうな顔をしていた。


「そうなんですね。それで、その地球人の皆さんは?」


「みんな食べるだけ食べたらすぐに出て行くんだ。まったくアイツらはこの星をなんだと思ってるんだ」


「……あの、確かにいい香りがしてますが、食べるって何を?」


 私はまた周りを見た。


「目の前にあるモノ全てだよ。この星のモノはほとんどが食べられるんだ。それでなおかつ旨いときたもんだ。その地面に生えてるヤツ、食べてみろ」


 オジサンは私の足下を指差した。


 地面には緑色の草のようなモノが生えている。


「これを、ですか?」


「ああ」


 私はその草のようなモノをちぎって口に入れた。


「ん、おいしい……」


 見た目は草だったが、口に入れた瞬間それは食感も味もまるで本物のハンバーガーだった。


「……どういうこと、ですか?」


 この不思議な現象に私は驚きを隠せなかった。


「この星のモノは口に入れると自分が食べたい物に変身してくれるんだよ。だからいつでもどこでもすぐに自分の食べたい物が食べられるってわけさ」


「そんなことが……」


「その草も木も土も、自然のモノは全てそうさ」


「……スゴい星ですね」


「そうだろ? ただねぇ……」


 オジサンは急にどや顔から暗い顔に表情を変えた。


「食べたい物を食べたいだけ食べるというのは本当によくない」


「はあ。どういう意味でしょうか」


「考えてみろ。いくら旨いからって、実際に食べているモノは草や土なんだぞ。腹を壊して当然だ」


 私は自分が持っている草を見つめた。言われてみれば確かに味と食感は違ったが、口に入れたのはこの草だ。


「腹をすかせた地球人は食うだけ食ったらみんなうずくまって苦しんでたさ。逃げるようにこの星から出ていったよ」


「なるほど。なんだかご迷惑をかけたみたいですみませんでした」


 私は同じ地球人として謝った。


「あの……」


「なんじゃ?」


「この星の方々は何を食べているのですか?」


 ふと浮かんだ疑問を聞いてみた。


「あれだよ」


 オジサンが指差した方を見た。


 そこには大型犬くらいの大きさの、地球でいうナメクジを大きくしたような生き物が群れになってゆっくりと動いていた。


「わあっ」


 ゾッとした。


 あまりの気味の悪さに何歩か後ずさりしてしまった。


「こいつらは一度食べると忘れられないくらいに旨いぞ。どうだ? 食べてみるか? 生でも充分美味しいぞ?」


 オジサンはそう言うとカバンの中から大きなナイフを取り出した。


「え、いや、けっこうです。もうお腹いっぱいですので、そろそろ失礼します」


 私は急いで脱出ポッドに乗り込んだ。


「今度は腹をすかせてこいよ」


 そう叫んでいるオジサンに見送られながらポッドを発進させた。





 (ふう……気持ち悪かった)



 完全に食欲が失くなった私はしばらくの間、お腹の痛みと戦っていた。





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