公式配信第15回

 7月第1回の配信とのこと。


 小説コンテストの話は色々とあるが、夏限定のテーマ系にでもエントリーするのだろうか?


 そして、配信は始まろうとしている。



『皆さん、お待たせしました。アーカーシャチャンネルの管理人です』


 姿を見せたのは、ショートヘアにメガネ、若干巨乳なメイド服姿の女性である。


 それとは別にセットの中には、扇風機が設置されていた。夏という事でセットを一新したのだろうか?


『様々な時間、過去、未来、それこそ別次元……そうした様々なものに存在する時間の出来事、それらを観測するのがアーカーシャチャンネルです』


『皆さんにお願いがあります。アーカーシャチャンネルが観測できることは、全てが真実とは限りません。その一方で、観測した内容を炎上目的や単純なバズり、それこそ世界を混乱させるのに悪用する人はいるでしょう』


『私たちの情報はあくまでも観測、未来に起こるかもしれない出来事でも変えることはできます。安易な炎上によるバズり目当ての記事などには耳を貸さず、炎上案件に関しては拡散の阻止にもご協力ください』


『我々の観測した情報を生かすも殺すも、皆さんの情報に対する向き合い方ひとつで変わるのです。見たくない話題にミュートをかけているような状態のユーザーにも、観測した内容を無理やり見せるような行為は……我々も望んではいません』


『皆さんにも、この辺りに関してご理解とご協力をお願いします』


 管理人の注意事項、それは情報を扱うユーザーにとっては色々と課題が多い。


 今の時代、誰もがSNSのアカウントを持って情報発信を行うような時代である。それを踏まえると、こうした注意事項も必要かもしれない。


 Aというサイトでは立ち上げているが、BというSNSでアカウントを立ち上げていないという事にも理由はあるだろう。


 そうしたアカウントで告知があって立ち上げたのであれば本物かもしれないが、無告知で立ち上げはまずありえない。


 告知忘れもあるかもしれないが……この辺りは色々と見極める必要性もあるだろう。


 相変わらずのテンプレ水増し……と突っ込まれる個所かもしれないが、こちらの有無で彼女の伝えたいことは分かるかも……と。



『今回もロケハンについて、にしようと思います』


 本日もロケハン話になるようだ。


 果たして、どのような話になるのか……。


『現在進行形ではありますが、対電忍という新規で展開予定の小説のプロットを製作中だったりします』


『内容は若干出来上がりつつありますし、話の流れはほぼ決まってはいるのですが……それでも、まだロケハン不足な気配もするのです』


 今回も対電忍関係と思ったが、実際には違う様子。


 実際、先行情報を有料会員限定で公開するようなケースもゼロではないが、アーカーシャチャンネルにはそういったシステムはない。


 コースこそは設定されているが、有料コースを利用しているユーザーはいないというのが現状かもしれないが。



『ロケハン規模が非常に高いことは、前にも言及したのですが……ロケハン対象が多すぎても、少なすぎても自分の場合は非常に困るのです』


『多すぎても困るというのは、それを題材にするという意味でも困るというか…少し言葉にするのも難しいですね』


 そこで彼女が取り出したもの、それは何も書かれていない無地のタンブラーだった。


 このタンブラーを使って手品をするわけではないし、中にアイスコーヒーを注いだりするわけでもない。


 しばらくして、タンブラーを彼女が唐突にシェイクをするかのように振り始めたのだが、中身は何も入っていないので音もしないのだ。


 音といっても、シェイク音が入っているわけではないので、本当に無音なのである。


 だからと言って、振るポーズを事前に撮影して、タンブラーを合成するパターンでもない。あくまでも、これは小説なのでそういったパターンではないのは明白だが。


『この無地のタンブラーですが、いわゆる意図的に色が塗られていないパターンではありません。特注品には違いありませんが』


『このタンブラーにイラストを入れることは出来るかもしれませんが、どうやってイラストを追加すればいいか……というのがあります』


『イラストを追加する方法は、調べれば出てくるでしょう。しかし、検索をした結果として大量に出てきたら。それこそ取捨選別が難しいほどの量だったら?』


 彼女のいう事は一理あった。検索して数百件程度であれば、時間のある限り出てきた結果を調べるのは……できるかもしれない。


 しかし、数千件や数万件といった桁数だったらどうするか? アーカーシャチャンネルは人工知能を持っているわけでもなければ、それらのツールを使っているわけでもない。


『アーカーシャチャンネルは、それらを踏まえると文章だけであらゆる万能を表現できるわけではありません。事前に調べる必要性のあるものだって出てくるでしょう』


『それを踏まえて、色々とロケハンをする必要性があるのですよ。それも悪意ある炎上などに悪用されないようなニュースを取捨選択して』


『取捨選択した結果が、色々な意味で内容が偏っている事実は間違いないわけですが』


 この後も話は続く。暗いトーンで話したわけではないので、深刻度合いが高いわけではないだろう。



 雑談枠としては新規ユーザー取得のためにアカウントを増やすべきか、という話もあった。


 新規ユーザーの獲得は重要だろうし、そのために別のSNSへ進出しても登録の段階で出来ないという場所のアカウントは取れないだろう。


 スマホが必須となるようなアカウントをアーカーシャチャンネルがとっていない理由は、何かがあるのだろうか?


 それを踏まえると、本人がアカウントを取れないSNSのアカウントでアーカーシャチャンネルを見かけたら、それは明らかになりすましといえる。


 しかし、裏を返せば別の小説サイトのアカウントを取り、ある意味でも小説サイトで活動するバーチャル配信者としてアピールするのはありなのでは、と思う部分もあった。


 それをやらないのには、何か理由があるのか? あえて該当する部分は語らないので、スルーした方がよいのかもしれない。



『皆さんも、可能であればレッツVTuber、なのですよ』


 最後の台詞は元気よく、管理人らしくはないような表情を見せることもあった。


 本当に小説サイトで活動するバーチャル配信者なんて……という声があったかは定かではないが、色々なジャンルのバーチャル配信者は増えつつある。


 次回の配信スケジュールを見ると、予定は未定とあった。現在進行形のロケハンもあるので、この辺りは……という事だろう。


 ロケハン中の小説の進行具合も気になるが、こちらの方も重要なのかもしれない。



 安易な収益化を狙っているわけではないが、配信を行うようでもある。


 この配信をきっかけに、アーカーシャチャンネルが話題になる事を信じて。

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