公式配信第8回

 遂に配信が始まろうとしている。まさかの大晦日配信という展開だった。


 大晦日に配信を行うVTuberもいることは把握しているが、まさかのSSVTuberもその波に便乗するのだろうか?


 そうした疑問を持ちつつも、SSVTuberの2022年最後となる配信を迎える。



『皆さん、お待たせしました。アーカーシャチャンネルの管理人です』


 姿を見せたのは、ショートヘアにメガネ、若干巨乳なメイド服姿の女性である。バ美肉かどうかは判断できないが、ボイスチェンジャーを使っているかと言われると……そういう感じはしない。


 アバターの名前はなく、あくまで管理人である。管理人代行は男性のようだが、そこは突っ込むべき箇所であるかどうかは定かではない。


 テンションに関してはいつも通り。むしろ……というのもあるかもしれないが。

 

『様々な時間、過去、未来、それこそ別次元……そうした様々なものに存在する時間の出来事、それらを観測するのがアーカーシャチャンネルです』


『皆さんにお願いがあります。アーカーシャチャンネルが観測できることは、全てが真実とは限りません。その一方で、観測した内容を炎上目的や単純なバズり、それこそ世界を混乱させるのに悪用する人はいるでしょう』


『私たちの情報はあくまでも観測、未来に起こるかもしれない出来事でも変えることはできます。安易な炎上によるバズり目当ての記事などには耳を貸さず、炎上案件に関しては拡散の阻止にもご協力ください』


 この辺りの注意文メッセージは、固定される。なりすましアカウントやなりすましサイトなどもいる以上、こうした注意喚起をすることでなりすましを減らすという考えかもしれない。


 今回は大晦日配信という事もあって、ココも普通に流すという事かもしれない。



【アーカーシャチャンネルは、ほぼフィクションです。配信活動自体はフィクションではありませんが、観測内容は基本的にフィクションとなります】


【仮に観測内容が現実となった際は、その際に改めて再観測を行い、そこで改めて真実かどうかの告知を行います】


 この文章は固定化されている。他の文章にも臨時的な要素はない。


 そして、アーカーシャチャンネルの配信は始まろうとしていた。



『今回は、まさかの大晦日配信であって2022年の配信としてはラストになります』


『ある意味でも区切りはいいですよね。今年ラストの配信が大晦日というのも』


『他のVTuberでも配信を行っている人はいますし、元旦に配信する人もいるでしょう。それを踏まえると……というのもありますが』


『自分はというと、大晦日の観測をしていましたね。競馬場にオートレース、競艇……大晦日でも人の集まる場所には集まります』


『人それぞれの大晦日があり、クライマックスも迫っていると言えるかもしれません。皆さんは、どういった大晦日を迎えますか?』


『本当だったら去年は格闘技もあったのですが、今年は色々とあって観測できないのです』


 かなりの割合でメタ発言にも聞こえなくはないのだが、アーカーシャチャンネルにも観測エリアの限界があるという事が、この話で分かった気配もする。


 観測と言っても、そこまで魔法や超能力じみたものではない。トリックが分かってしまえば、何という事はないのだ。


 一方で、特定ジャンルの話題を取り入れないというのは評価できる部分もある。下手に炎上を煽っては、それこそ……。



『今回の話題は、かなり特殊なものですね。大晦日に新たなスポーツが生まれるかも……という話題です』


『皆さんはイースポーツをご存じでしょうか? それを応用したようなスポーツの話題を観測しました』


『それはバーチャルアバターを使用したリアルフィールド投影型スポーツです』


『拡張現実を使用したようなコンテンツは様々あるのかもしれませんが、これは別の意味でも考えている人は多そうですが……というパターンですね』


『技術的には、複合現実にも似たようなもので再現するとか。どちらにしても、すぐに現実化するようなものではないのは事実かもしれませんが』


『この技術を応用すれば、投影に使用するようなシステムを警備に流用するなんてことも……』


『電力に関しては、太陽光などの物を使用している描写の作品もあるらしいけど、魔法発電という予想の斜め上な技術もあったみたい』


『どうなるかに関しては、まだわからないし、これが現実化したらコンテンツ業界は転換期を迎えるかもしれないわね』


 管理人はさっくりと話しているようだが、その内容を理解してコメントしているような人物は見当たらない。


 それこそフィクションと言及するような人物も多いようにも見える。しかし、よく考えればアーカーシャチャンネルはフィクションの観測情報を流すものだ。


 これが現実化したら、それこそ彼女が情報は事実だったとお詫びを出すような事態になるはず。それをわからないでコメントしているのだろうか?



『今回は久々の配信だったので、人が来ないのでは……と思いましたが、そういったことはなかったかもしれません』


『これを見てくれた観測者の皆さんは、自分たちでもSSVTuber活動が出来ないか考えて、配信を行っていただけると嬉しいですね』


『それでも悪意を持って配信を行い、炎上するような行為は自滅を招くこともあるので絶対に行わないでください』


『あくまでも観測者も管理人も楽しめる……それが理想の配信なのですから』


 この辺りの発言は色々な意味でも刺さる人はいるかもしれない。それを踏まえると、アーカーシャチャンネルが行おうとしていたことは挑戦とも言えるだろう。


 動画サイトでないとVTuber活動が出来ない、それは誰が決めた事なのだろう? 小説サイトでもVTuber活動は出来る、それをアーカーシャチャンネルが証明するのかもしれない。


 それこそ観測者が増えて、認知されなければSSVTuberは夢物語だ、と炎上させるような『バズり』目的の人物が現れるのも時間の問題だろう。


『皆さんも、可能であればレッツVTuber、なのですよ』


 最後の台詞は元気よく、管理人らしくはないような表情を見せることもあった。


 いわゆるネガティブなニュースは拡散が速いと言われていることが多い。しかし、彼女はポジティブな話題を拡散し、それを広めようと努力している。


 アーカーシャチャンネルの可能性はある、SSVTuberも間違いなくVTuber活動の一環だ、そう彼女は確信ているからこそ、大晦日の配信を行ったのかもしれない。



 次回の配信スケジュールは……と思ったら今年は色々とあって配信できていないことが多かったように思えた。


 来年度の予定は未定という事が書かれていた。どうやら、小説の執筆をメインにすることが理由らしい。


 しかし、それでもアーカーシャチャンネルとしては試行錯誤を繰り返して続けていくともしているので、そういう事だろう。


 安易な収益化を狙っているわけではないが、今後も急なスケジュール変更がない限りは配信を行うようでもある。


 この配信をきっかけに、アーカーシャチャンネルが話題になる事を信じて。


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