公式配信第4回


 遂に配信が始まろうとしている。今回は定期配信というべきなのかもしれない。


 前回は色々と臨時要素もあっただけに……。


 観測のつぶやきにいいねをする同業者も出てきている流れの中、文章VTuberの配信は第4回を迎えた。



『皆さん、お待たせしました。アーカーシャチャンネルの管理人です』


 姿を見せたのは、ショートヘアにメガネ、若干巨乳なメイド服姿の女性である。バ美肉かどうかは判断できないが、ボイスチェンジャーを使っているかと言われると……そういう感じはしない。


 アバターの名前はなく、あくまで管理人である。


 テンションに関してはいつも通りで、臨時配信のアレは特別だったのだろう。

 

『様々な時間、過去、未来、それこそ別次元……そうした様々なものに存在する時間の出来事、それらを観測するのがアーカーシャチャンネルです』


『皆さんにお願いがあります。アーカーシャチャンネルが観測できることは、全てが真実とは限りません。その一方で、観測した内容を炎上目的や単純なバズり、それこそ世界を混乱させるのに悪用する人はいるでしょう』


『私たちの情報はあくまでも観測、未来に起こるかもしれない出来事でも変えることはできます。安易な炎上によるバズり目当ての記事などには耳を貸さず、炎上案件に関しては拡散の阻止にもご協力ください』


 この辺りの注意文メッセージは、固定されるようだ。なりすましアカウントやなりすましサイトなどもいる以上、こうした注意喚起をすることでなりすましを減らすという考えかもしれない。


 臨時配信ではばっさりカットだったが……あれは特別な事情があると察する事が出来た。


 今回は特別な事情もあるわけではないので、平常運航というべきか?



【アーカーシャチャンネルは、ほぼフィクションです。配信活動自体はフィクションではありませんが、観測内容は基本的にフィクションとなります】


【仮に観測内容が現実となった際は、その際に改めて再観測を行い、そこで改めて真実かどうかの告知を行います】


 この文章は固定化されている。他の文章にも臨時的な要素はない。


 そして、アーカーシャチャンネルの配信は始まろうとしていた。




『今回観測したのは、とあるエリアでの情報ですね。珍しい自動販売機の話です』


 今回の観測した情報はホビー関係。珍しい自動販売機らしい。


『昔は100円を入れるとミニムービーが見られるようなものとか……珍しいようなものもありましたが、近年の傾向を踏まえたようなものが出来たようです』


『現在はテスト中との事でしたが、将来的に広がる事もあるかもしれませんね』


 彼女が手に持っていたのは、丸いカプセルの物のようだが……何やら微妙に何かを付けていたような溝が印象的だ。


 カプセルの開け方は一般的なものと変わりないが、中には何も入っていない。どうやらカプセルだけを紹介するために用意したもののようである。


 反応を見る限りでは、色々と困惑の表情を見せる管理人だが……何があるというのだろうか?


『この溝の部分には、あるものがつけられていたのですが……持ち帰り不能という事で、店側で回収してしまうようです』


『実はつけられていたものというのは、ICチップ。しかし、いわゆる盗難防止でつけられたわけでなく、別の事情でつけられています』


『それが、偽グッズ対策なのですよ。近所のスーパーでも有名アイドルや海外のアーティストの写真を無断で使ったグッズもあるようですが……その対策でICチップを使う、との事』


『どういう風に使うのかは企業機密という事で教えてもらえませんでしたが、ICチップに正規品であるという情報を記録して、その自動販売機で販売できるようにしている……という単純な構造だと思います』


『技術的にも色々と転用はされそうですが、近年は電子マネー対応の自動販売機も出ていたりしますし、非正規品などの拡散を防ぐにはICチップも効果的なのも知れません』


『なお、この自動販売機は太陽光発電を使ったものらしいので、外に置いておいてもコンセントに電源を……と言ったことはない様子』


『これも時代というものなんですかねぇ……』


 電子マネーを使った自動販売機は実際に見かけることもあるが、カプセル型自動販売機で偽グッズという問題は様々なところで言及はされている。


 それを防ぐための仕組みにICチップをカプセルに付けた正規品しか販売できないようにする自動販売機……これは、思わぬ所で需要はあるだろう。


 いわゆる『1000円ガチャ』と言われるようなもので実装されるのかは不明だが、本物か偽物かを自動販売機の段階で見分けるのは難しい。


 そういった意味で偽物グッズを購入者が手にしないようにする、という取り組み自体は応援したいところだ。


『さすがにアーカーシャチャンネルを視聴している観測者の皆さんに、そこまでの不正行為をする人もゼロとも言えませんが、悪用してはいけませんよ』


 アーカーシャチャンネルの視聴者を、管理人は観測者と呼んでいる。


 しかし、あくまでもアーカーシャチャンネルで扱うのはフィクションであり、現実に同じような自動販売機が存在するかは……定かではない。


 別のジャンルでは現実にもあるのかもしれないが、今回の観測で確認された自動販売機とは違う部類……というニュアンスがあるのだろう。



『色々と観測をしている間にも、時間となってしまいました。今後も、こうした風に観測した話題を配信していきますのでよろしくお願いします』


 今回は、この他にもガーディアン組織、VRゲームの新ジャンルなども観測していたという。


 それらに関してはメインサイトなどでフォローしてくれる可能性がゼロではない。そちらに期待する事にしよう。



『皆さんも、可能であればレッツVTuber、なのですよ』


 最後の台詞は元気よく、いつも通りのテンションで配信は終わる。


 次回の配信スケジュールを見ると、定期配信を予定しているかのようなスケジュールだが、もしかすると……という含みもあった。


 彼女のリアクションを見ると、SNSの炎上に関しては悲しそうな表情をしているような場面もあったが……あまりそうしたネガティブな情報を配信したくはない、というのもあるかもしれない


 この配信をきっかけに、アーカーシャチャンネルが話題になる事を信じて。

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