第26話 役所での確認と失望
結局、妻の鈴奈との話し合いは平行線で終わった。
義父が言った通り、妻は酷く落ち込んでいるみたいだった。
しきりに子宮外妊娠で、卵管を切除した事、二人目の子供を産めなかった事を気にして良に謝ってきていた。
なんども良は妻を慰めたが、離婚したいとの妻の意思は変わらなかった。
また、退院の時に来ると言い、良は病室を後にした。
義父と勇太は、病院の前の公園で遊んでいた。
帰る前に声をかけると、義父もしばらく時間を置いた方がいいと言っていた。良と鈴奈が、仲が良い事を知っている義父は、良に同情的だった。勇太との別れを惜しみながら、良は帰って行った。
帰宅する前に、父と祖母が入院している病院へ寄る。
父は、部屋のベッドに座りお茶を飲んでいた。
思っていたより回復が早い。良は少し安心していた。
「良。よく来てくれたな。それでどうだった。」
良は、父へ告げた。
「父さんの言った通り、家の通帳がなくなっていたよ。生活費を入れていた母さん名義の通帳がね。あれには俺も生活費を振り込んでいたのに、ショックだよ。俺たち夫婦の通帳は無事だった。2階は荒らされてなかったよ。」
父は言った。
「そうか。あれには数百万入っていたはずだ。やはり京香が盗んだのだろうな。最近、自宅の貴金属が無くなる事が多くて、俺は京香を疑っていた。今日思い出したが、京香と離婚の話をする前に、小型カメラを棚の上に設置していた。多分それに、俺を襲った人物と、金品を盗んだ人物が映っているはずだ。悪いが、確認してもらえないか。」
良は、不思議そうに言う。そんなものは記憶にない。
「カメラ?」
父は言った。
「小型カメラを棚の上に置いてある箱に設置している。1ヵ月程自動的に記録するものだ。どうしても京香が俺を何か硬いもので殴ったとしか思えない。それを見たらはっきりするはずだ。」
良は、頷いた。
「ああ、分かったよ。確認してみる。」
自宅についた良は、さっそく父が言っていたカメラを確認した。
リビングの本棚の上に、箱に入ったカメラを発見した。黒い箱には目立たないように穴が開いており、そこから録画をしていたようだった。
カメラのメモリを取り出し、自身のパソコンへ入れた。
データ量が多すぎて、読み込みと確認に時間がかかりそうだった。
良は、また後日確認する事にして一人きりになった丸田家で眠りについた。
妻の限界だという言葉を思い出しながら、、、
翌日、良は仕事終わりに市役所の夜間受付へ来ていた。
両親の離婚届が自宅にない。もしかしたら、すでに母が提出している可能性がある。
市役所で、戸籍を確認する。
母の欄は、除籍となっていた。
それを見て、良は大きく失望を感じた。
同居について、好意的だった母に違和感を持ちながら、子供より孫が可愛いという話を思い出し、母も変わったのだろうと期待していた。
だが、自分勝手な母は変わっていなかった。
夫が倒れ、嫁と孫が出て行った途端、貯金通帳を持ち出し離婚届を提出したのだろう。
離婚した母の戸籍についても申請請求をした。
母は、結婚前の実家に戸籍を戻したみたいだった。
良は、父の携帯電話の電話帳から写し取った電話番号をもとに、母の生家へ電話をかけてみた。
プルルルルプルルルル
「はい。真多です。」
「夜分遅くに失礼します。京香の息子の丸田良です。」
「ああ、京香の、、、」
母は、実家を引き継いだ兄と疎遠で、良もほとんど会った事がなかった。
「すみません。今、父が倒れ、入院しています。その後に母が通帳を持ち家を出て行き離婚届を提出したみたいで連絡が取れなくなっています。今日確認したら両親の離婚が成立しており、母はそちらに戸籍を戻しているみたいなのですが、なにか連絡はないでしょうか。」
電話の向こうで叔父はしばらく黙り込み、返事を返した。
「・・・・・・・。そうか。君も大変だな。こちらには京香から連絡は来ていない。」
良は言う。
「そうですか。実は母が、数百万円入っている預金通帳や、祖母や父の貴金属を持ち出したみたいです。証拠の動画も残っており、警察へ相談しようと思っています。もし母から連絡があれば、賠償請求を元家族が検討しているみたいだと伝えて貰っていいでしょうか。」
叔父は言った。
「あいつは、まだそんな事をしていたのだな。結婚してからは落ち着いたと思っていたが、ここにいる時も、家の物を勝手に持ち出す癖があったよ。広一さんは、金庫を設置しているから問題ないと言っていたのだが、、、京香から連絡があったら伝えよう。」
良は言った。
「そうなのですね。お手数をおかけします。」
良は電話を切り、決意した。
母は一方的に家族を捨てた。父だけでなく嫁の鈴奈や孫が大変な時に、家から金銭を持ち出し出て行った。もう母には何も期待していない。良は、自分の家族を守るための行動を取る事に決めた。幸いな事に証拠がある。
先に俺たちを捨てたのは母さんだ。
もう、あんな人は母ではない。
母との決別を報告したのなら、妻の鈴奈と息子の良太とまた一緒に暮らせるだろうか。
夕焼け空を見ながら、離れて暮らしている妻と息子の事を思い出していた。
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