第5話 空の冷蔵庫
1階のキッチンへ行くと、そこには義祖母の文がいた。
椅子に座り、テレビを見ている。
文は、鈴奈に気が付き、声をかけてきた。
「鈴ちゃん。来てくれたんだね。ありがとう。」
82歳になる義祖母の文さんは、短い白髪の女性だ。共働きの息子夫婦の為に、丸田家の家事や育児のほとんどを担ってきたらしい。夫の良もお婆さんに育てられたと言っていた。鈴奈は良と結婚して初めて文さんと会った時から、「鈴ちゃん」と義祖母に呼ばれて可愛がられている。文さんは両膝の手術を去年受けたらしい。それから立ち仕事が辛くなったと言っていた。
「御祖母さん。少し買い物に行ってきますね。なにか必要なものはないですか?」
鈴奈は、冷蔵庫や棚の中を開けてみる。今から買い物に行って、献立を考えないといけない。義母は鰻がいいと言っていたが、夫や義父がいないのに、鰻を昼食で食べるつもりはなかった。
冷蔵庫の中は、驚くほど何もなかった。
卵や牛乳でさえない。以前は文が買い物に行き、綺麗に整頓された食材が並んでいたはずだった。
鈴奈は違和感を持った。
文は笑って言った。
「鈴ちゃんが来てくれただけで十分だよ。嬉しいね。お金は足りているかい?これを持ってお行き。」
鈴奈は言った。
「ふふふ。御祖母さん。ありがとうございます。」
鈴奈は、食費を渡されたと思い、財布に入れて息子と買い物へ出かけた。
正直文さんに息子を預けられたらと思ったが、3歳の息子は活発に動き回る。時折、机や椅子の上に登って遊ぼうとする事もあり、足が悪い義祖母に任せるのは心配だった。
「勇くん。お買い物にいこうかな。」
「うん。行く!お菓子!おもちゃ!」
「お菓子は1個だけだよ。お約束。」
「お約束!」
鈴奈は、勇太の手を引いて買い物へ出かけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます