第34話 忘れたはずの思い
写真には、数人の女性がホストに取り囲まれて笑っている光景が映っていた。
中央にホスト姿の徹が映っている。その徹に寄り添うように笑っているのは、あの京香だった。
派手な化粧に、真新しい服、ネックレスやピアスは輝いている。
麗奈は、その女性を指さして徹に聞いた。
「ねえ、この人は?」
徹は言う。
「ああ、京香さんね。最近よく店に来る人だよ。退職金があるとか言っていたけど、もうかなりの金額を店で使っている。沢山彼氏がいて昔からいろいろ貢がれていたって。それなりに身だしなみに気を遣っているけど、もう年だろ。誰も本気にしていないけどね。」
麗奈は言った。
「この人よ。父を騙したのは、、、、」
麗奈の父は遺書を残して亡くなった。結婚すると言われた女が家の貴金属や通帳を盗んで消えたと書かれていた。その遺書には京香の名前までは書いていなかったが、麗奈は京香の事だと確信していた。
麗奈は父が亡くなった後、京香の事を訴えようと思った。だけど、証拠は何もない。祖父母宅を追い出された日しか、父と京香が一緒にいる姿を見た事がない。それに、京香は叔父の妻だった。援助してくれている家の者を訴える事なんてできない。
徹は驚いて言った。
「自殺した叔父さんの?でも、確か京香さんは結婚しているらしいよ。夫が急に老け込んで嫌になるってよく愚痴を言っているし。」
麗奈は、忘れたはずの怒りを思い出して、震えた。
この人さえいなければ、私は家を追い出される事がなかった。
この人さえいなければ、丸田家で家族と一緒に暮らせたかもしれない。
この人さえいなければ、元夫と結婚する事もなかったかもしれない。
この人さえいなければ、私は子供を産む事が、、、、、
「麗奈?大丈夫か?」
様子がおかしい麗奈に徹が優しく声をかけてきた。
その様子を静観していた高齢な菊が言う。
「徹。やっぱり仕事を変えないと。お前が、そんな女達の相手をする必要なんてない。私は、ここじゃなくてもいいから。」
徹は言った。
「お祖母ちゃん。やっと落ち着くところに入れたじゃないか。ここは新しいしサービスも整っているから生活が楽になったって言っていただろ。俺も、近くに住む場所が見つかったらもっと会いに来る。今住んでいる両親の遺産のマンションが売れそうだから、そのお金で新しい家を買うよ。そうだ。麗奈。施設管理者って言っていたよね。このあたりの住居は紹介者がいないと購入できないらしいけど、紹介してくれないかな?」
麗奈は、考え込んだようすで徹へ言った。
「紹介できない事はないわ。でも、この町の性質上住む人の職業がある程度選ばれるの。だけど、方法がないわけじゃない。」
そう、こんな事うまく行くはずがない。
だけど、もしあの女を丸田家から引き離せられるなら、
優しい祖母や叔父をあの女から解放できるかもしれない。
だから、麗奈は幼馴染の徹に依頼する事にした。
「マンションを徹に紹介するわ。必要ならこの町での仕事も紹介し、菊さんを入居費用の減免対象に選出するようにする。でもその代わりお願いしたい事があるの。」
麗奈は、徹に向かって妖艶に笑った。
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