第36話 消えた幼馴染
徹には大好きな女の子がいた。
隣の家に住む麗奈はとても可愛くて、徹は麗奈の事がずっと好きだった。
高校生の時、麗奈に告白しようと決めた。
だが、祖父母を亡くしたばかりの麗奈は落ち込んでいて、そんな雰囲気ではない。
だけど、もう少し時間がある。麗奈は大学にもここから通うらしい。麗奈が祖父母を亡くした悲しみが癒えてから告白しよう。
そう思っていた。
ある日、ふと隣の家の様子が可笑しい事に気が付いた。
派手なスポーツカーが止まっていると思っていたら、中から麗奈の父親が出てきた。
麗奈の父親は黒髪の女と寄り添うように歩いている。
あれは?だれなのだろう。それに麗奈は?
まるで自分達の家のように堂々と中に入って行った。
徹には信じられなかった。
麗奈は?
徹は、近くに置かれていた観覧版を持って、隣の家へ走って行った。
チャイムを鳴らし出てきたのは、麗奈の父親だった。
麗奈の父親は徹を見て眉をしかめる。
徹は言った。
「隣の家の徹です。観覧版を持ってきました。すみません麗奈さんにも用事があるのですが、呼んでいただけないでしょうか?」
麗奈の父親は言った。
「麗奈は出て行ったよ。あの子はしっかりしている。どこにいっても一人で大丈夫だろう。悪いが帰ってくれ。婚約者が来ているからね。」
徹は、驚き自宅へ帰っていった。
麗奈は携帯電話を持っていない。周囲の学友がほとんど持っている中で、高校生になった麗奈に携帯電話を買ってくれる大人はいなかった。
だから、麗奈に連絡を取る方法は、、、、
なにも、、、ない。
麗奈が出て行った。
麗奈がいない。
麗奈が、、、、
どうして、言わなかったのだろう。告白して、いつでも頼って来てくれと伝えていたなら、麗奈は徹の所に来ていたかもしれない。
徹は、悔しさでこぶしを握り締めた。
麗奈がいなくなって、徹は憔悴していた。
近所の介護福祉専門学校に通っていたが、正直自分には合っていない気がする。
介護福祉士の仕事は、オムツ変え、配膳、入浴介助と多岐に渡る。
資格を取り、専門学校を卒業した徹は、介護福祉士として病院に就職したが、拘束時間が長いわりに給料が少ない。月十数万しか手取りで残らず、生活費でほとんどが消えてしまう。
今はお祖母さんの家に住んでいるが、、、
そんな時、祖母が尻もちをついた。ただの尻もちだが、腰の痛みが酷く受診したら、胸腰椎圧迫骨折があり、既に何度も繰り返していると言われた。
骨粗しょう症で、骨がかなり脆くなっていたみたいだった。
入院の翌日からコルセットを巻き起き上がるリハビリが始まる。だが、祖母は起き上がる事が出来なかった。
脚に力が入らないのだ。感覚もない。担当していたリハビリスタッフが報告するとすぐに胸腰椎のMRI検査を受ける事になった。
祖母の脊髄は損傷していた。度重なる骨折で変形した骨が神経を圧迫している。
医師から、これからは車いす生活になると告げられた。
徹の両親は、二人で世界一周旅行へ行っている。帰ってくるのは来年の予定だった。町にある両親のマンションは、賃貸に出しており現在は入居者がいる。
徹の給料だけで、祖母を施設にいれる。
とてもではないが無理だった。
だから徹は決断した。仕事を辞める事を。
ホストになり、愛の言葉や優しい言葉を相手に言い続ける。
今でも、麗奈の事が忘れられない。だけど、麗奈はいなくなってしまった。
目の前の客を麗奈だと思い込み、あの時どうしても伝えらえなくて後悔していた言葉を言う。
両親は、海外旅行中に伝染病にかかり、あっけなく亡くなってしまった。賃貸に出していた徹の両親のマンションについては、入居者が出て行ったタイミングで徹が住む事になった。
祖母は、ショートステイや老人保健施設を転々としている。なかなか長期で入居できる施設が見つからない。
ホストの給料は介護福祉士をしていた時の5倍以上ある。祖母が施設に入居できる金銭的余裕があるはずだった。
祖母は車いすだが、頭ははっきりしており、自分の事がほとんどできるはずだからと、介護度が低いと判定され、長期の施設から断られる。
そうやって何年も過ごしていた時に、政府が公募している未来都市の情報を得た。ここならずっと祖母が暮らせるかもしれないと徹は、高齢者専用住宅への入居を祖母と決め申し込んだ。
そこで、徹は忘れられない相手と出会う。
「徹君」
久しぶりに会った麗奈は変わっていなかった。むしろあの頃より綺麗になっていた。
再会して2年が経った。その間、丸田家関係でいろいろあったが、徹と麗奈は、今でも一緒に暮らしている。
家事は共同で行い、休日は二人でデートする。
夕焼けが見える海岸沿いの公園で、徹が麗奈に言った。
「麗奈。愛しているよ。」
麗奈は笑って言う。
「ふふふ。さすが元ホストは口が上手いわね。」
徹は言う。
「こんな気持ちになるのは麗奈だけだよ。一生側にいて欲しい。結婚してくれないか。」
麗奈は悲しそうに言った。
「ありがとう。徹君。でも、私ね。実は子供が産めないの。だから、貴方とは結婚できないわ。」
徹は、笑いながら言った。
「子供がいなくてもいいじゃないか。その方が、麗奈を独り占めする時間が増える。
それに、子供ならこの町にたくさんいる。町全体で育てている沢山の子供達を俺たちも一緒に育てたらいい。だから麗奈一緒になろう。」
麗奈は、徹に寄り添いながら、涙目で頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます