第13話 実家に帰った水曜日

鈴奈は、勇太と買い物へ行った。


今日、義父の病院へは義母が行くらしい。




暑いアスファルト。


照りつける強い日差し。


凄く近いスーパーなのに、なぜかとても遠くに感じられる。


手を繋いでいる勇太が言う。


「ママ、暑いね。」


「すぐ着くからね。行きましょう。」


「うん。」


スーパーの中に入ると、冷房がよく効きとても涼しい。




ミーンミーンミーンミーン、、、ミーミー





甲高い蝉の鳴き声が、とても小さくなった。


鈴奈は、ふと外を見る。


灼熱の屋外は、地面からも熱を放っているようだ。



ユラユラ




おかしい。


もう店の中なのに、地面が揺れている。




ユラユラ。




違う。


揺れているのは私だ。


鈴奈は勇太と手を繋いだまま、その場に座り込んだ。


















頭が重く、立ち上がれなくなった鈴奈を心配した店の人に病院に行くように勧められた。


鈴奈も、なにか違和感を持っている。


両足に力が入らないような気がするのだ。


立てるし歩けるが、不安定な綿の地面を歩いているような不安感が付きまとう。




「勇太。お祖母ちゃんとお留守番できるかな。」


「お祖母ちゃんは意地悪だから嫌だよ。」




「そっか。」



今朝の様子を思い出すと、鈴奈も不安がある。


タクシーを呼び鈴奈はかかりつけの病院へ勇太と行く事にした。









予約をしておらず、1時間ほど待ちやっと鈴奈の番になった。


勇太には、売店で買ったおもちゃを渡している。


診察後医師が診断名と共に鈴奈に告げてきた。


「手術が必要ですね。」


鈴奈は、急な出来事に呆然としながら、返答した。


「手術ですか?」


医師は、落ち着いた口調子で言う。


「何かあった時の為に付き添いの方が必要です。できるだけ早い方がいいでしょう。今日予約されますか?」


鈴奈は、どうしていいか分からなかった。勇太を預けなければいけない。それに、付き添いまで、、、


「あの、少し電話をかけてもいいですか?」


医師は言った。

「いいですよ。しばらくしてから相談員が呼びます。そこで予約を取ってください。」










診察室から出た鈴奈は、義母に電話をかけた。


今日は、すぐに義母が電話にでた。


鈴奈は言った。

「お義母さん。すみません。体調を崩して病院を受診したら、、、、、、。できるだけ早く手術が必要らしくて、その時に付き添いと勇太をお願いできないでしょうか?」


電話のむこうの義母はイライラしているようだった。

「こんな時に何を言っているの?貴方に手術なんて必要ないわ。手術だなんてお金がかかるでしょう。私は付き添いも勇太の面倒も見られませんから! 」


義母は電話を一方的に切った。


薄々感じていたが、あまりの対応に鈴奈はショックを受ける。


夫の良の携帯電話にかける。相変わらず繋がらない。


もう無理だ。


こんな生活続けられない。








鈴奈は、父だけが残る県外の実家に電話をした。


実家の父が電話に出て、すぐに帰ってこいと鈴奈に言った。


紹介状を医師に書いて貰い、その日鈴奈は勇太と共に、迎えに来てくれた実父の車に乗り込んだ。





こんな結婚生活は続けることができない。


あんな義母と家族を続ける事は耐えられなかった。


鈴奈は、実家に帰る前に、義父が用意していた予備の離婚届を取り出し記入した。


2階の鈴奈達夫婦の部屋のテーブルに、記入済みの離婚届けだけを置き、丸田家を後にした。



遠方から車で迎えに来てくれた実父のセダンに息子と乗り込む。


「ありがとう。お父さん。」


「いいさ。勇太の事は任せてくれ。今している仕事もしばらく休みを取ったから、大丈夫だ。」


「うん。」


車の中で寝入った勇太の隣で、鈴奈は声に出さず泣き、涙を流した。


頬を伝い、唇についた涙はしょっぱかった。

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