第16話 みつからない金曜日
文は、家の中を探し回っていた。
年を取り、衰えた足腰、重い体、すっきりしない頭で、家の中を探し回る。
最近家の中がおかしい。
鈴ちゃんがまたいなくなったようだ。
やっと帰ってきた鈴ちゃんがまた出て行った。
あの女がまた邪魔をしたのだろう。
文は、テーブルの前から立ち上がり、自室へ戻って行った。
鈴ちゃんが困っているかもしれない。
同居できないのは、もう仕方がないかもしれないが、お金だけでも、また振り込んであげないと、、、
文は、よろよろと自室へ戻る。
おかしい。
見つからない。
箪笥の中を全て開けて、中の物を外に出すがみつからない。
ここに入れていたはずだ。
そういえば、あの女が、、、、、
何かを探していたような。
嫌な予感に文は自分の財布を探す事にした。
ない。
ない。
ない。
電話台の下の引き出しにもない。
バックの中にもない。
押入れの中の物を全て出しても見つからない。
文は、怖くなった。
盗まれた。大事なものが見つからない。
文は、普段はいかない息子夫婦の部屋へ行った。
そこは、すでに荒らされていた。
箪笥や押し入れから飛び出した服や物。
誰かが何かを探した跡が残っている。
やっぱり泥棒だ。あの女に違いない。
文は、電話の前に向かった。
連絡を、、、、、
連絡をしないと、、、、、
だけど、頭の中に電話番号が浮かんでこない。
震える手で、受話器を上げ電話を掛けようとする。
・・・・・・・
何を押せば、、、、
ミーーーーンミーーーンミーーーーンミーーーーン
外で蝉が大声で鳴いている。
窓を閉め切っているのか、籠ったような蝉の鳴き声が聞こえてくる。
地震が起きた後のように、物が散乱した家の中で文は一人受話器を持ち立ち尽くしていた。
ミーーーーンミーーーーンミーーーーンミーーーーン
電話をかけようと番号を思い出そうとする。
家の中を文は見渡した。
電話、、、電話番号、、、、、、
電話台の奥の室温計が目に入った。
37°
文は電話の数字を3、、、7と押す。
ツーツーツーツー
その機械音を聞きながら、文はふらふらとその場に倒れこんだ。
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