第40話 エピローグ
文は明るい日差しで目を覚ました。
夢の中で、娘の鈴が呼んでいた気がする。
鈴は?
鈴はどこにいる?
文は目を開いて周囲を見渡した。
目の前に鈴の笑った顔がある。
よくみるとそれは小さな仏壇で、中央に笑っている鈴の写真が飾られていた。
(帰って来た。鈴が帰って来た。)
笑う鈴を見て安心した文は、起き上がった。
清潔なベッドに、歩きやすいように配置された家具は、長年文が使ってきた慣れ親しんだ家具だった。
長年愛用してきたコップ、古いがシンプルで使いやすい家電。清潔な室内。
家族の為に、文が買った古い達磨。
ふと文は違和感を持つが、気のせいだと娘の写真を見て笑った。
そこへ、ドアをノックして数人の人物が入って来た。
若い夫婦は、一人の子供と手を繋ぎ、赤子を抱いている。
後ろからゆっくり入ってくる壮年の夫婦は、一人は白髪で杖をついてゆっくり歩いてくる女性と、その女性を支える男性だった。
文は言った。
「いらっしゃい。だれだったかな。」
白髪の女性を支える男性が言った。
「息子の広一だよ。貴方の孫やひ孫もいる。調子はどうだい?」
息子だと名乗る男性は、確かに見覚えがある。入って来た人達の名前は思い浮かばないが、文の家族なのだろう。
よかった。こんないい家族がいてよかった。
文は満面の笑みで言った。
「いいよ。いいよ。ありがとう。私は幸せ者だよ。」
そんな文を見て、みんなが笑う。
「御祖母さん凄い笑顔だね。」
「そうね。私も元気になりそう。」
子どもも笑い、大人も笑う。楽しく朗らかな空間に文は包まれていた。
ああ、よかった。よかった。本当に良かった。
ふと文は白髪の女性が、文の箪笥をジトリと値踏みするように見て、ニヤリと笑っている事に気が付いた。
そうだ。こういう時は、
「気を付けないとね。見られているよ。」
白髪の女性はビクリと怯えたように広一を見る。広一は、白髪の女性を見て微笑んでいた。
「ああ、大丈夫だよ。ずっと見ているからね。」
END
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