第28話 幸せな暮らし
京香は、丸田家を出た後、すぐに役所で離婚届を提出した。
戸籍と住民票を生家に戻し、急いで愛する徹の家へ向かった。
出迎えてくれた徹は、京香が沢山の荷物を持って来た事に驚いていた。
「京香さん。いらっしゃい。どうしたの?」
京香は言った。
「600万円以上あるわ。一緒に暮らすって約束したわよね。」
一瞬無表情になった徹は、すぐに笑顔になって京香へ言った。
「もちろんいいよ。一緒に暮らそう。中に入って。」
京香は喜び徹の家に入っていった。
徹は高層マンションの13階に住んでいた。一人暮らしにしては広いそのマンションは3LDKの間取りだった。京香は一室を徹に使っていいと言われた。
徹には300万円を渡した。徹はとても喜んでいた。
優しい徹は、手料理を作り時々京香へ食べさせてくれる。自宅の家事は殆ど徹がしていた。
徹は仕事が忙しいようで外出する事が多くて、京香は少し寂しく感じていた。
京香は徹に尋ねる。
「ねえ、徹。次はいつが休みなの?」
徹は言った。
「どうかな。この前、店の人間が数人辞めたから、しばらくは忙しいな。早く借りた300万円も返したいし。ごめんね。京香さんの相手が出来なくて。俺の事はいいから、京香さんも楽しんできてよ。」
京香は言った。
「ふふふ。ありがとう徹。」
家事をしなくていい、好きな事をしていい、好きな人と暮らせる。京香の望んだ環境がそこに合った。
京香は、残ったお金を使って、好きな物を食べ歩いた。通帳にはまだ数百万円がある。年金も入ってくるし、もしお金が無くなれば働けばいい。若い見た目の京香は50代に間違われる事がある。いくらでも仕事がありだそうと思っていた。
そうして、徹と一緒に暮らし3か月程経った時に、京香は異変に気が付いた。
徹が自宅に帰って来なくなったのだ。
どういう事か分からず京香は困惑する。
ある日、京香が旅行先で泊り、徹のマンションに帰ると、そこには何もなかった。
家具やベッド、衣類、トイレットペーパーまで全て無くなっている。
京香は驚き、マンションの管理人室へ行き、確認する。
「すみません。1304室の者なのですが、家の中に何も無くなっています。どういう事ですか?」
マンションの管理人は疑惑の籠った眼差しで京香を見て言った。
「その部屋の住人なら昨日引っ越したよ。なんでも変な女に付き纏われて困っているからと言っていたな。家の中まで入ってきたらしい。もしかしてアンタの事か?」
京香は驚き言った。
「違います。私は徹の、、、、」
徹の恋人でもない。妻でもない。親戚でもない。ただお金を貸している元客の一人だ。
徹の、、、
管理人は、ガラスの向こうで受話器に手をかけた。
「そこで待っていてくれ、今警察を呼ぶ。」
驚いた京香は、慌ててそのマンションから逃げ出した。
徹に渡した300万円は結局返ってきていない。
それに、京香の貯金も尽きかけていた。
(まだ、夫は入院しているわよね。鈴奈さんも実家に帰ったし、お祖母さんだけならどうとでもなるわ。)
京香は、丸田家へ向かった。
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