限界離婚

第11話 抱き上げながらのIC

鈴奈は、救急車へ同乗した。

息子を家に置いていくわけには行かず、救急隊員さんへ頭を下げて同乗させてもらう。

義母はいつのまにかいなくなっていた。車が無いので、どこかにまた出かけたらしい。

きっと、義母と義父は離婚の話をしていたはずだ。

義母がいなくなるのも仕方がないかもしれないと鈴奈は自分を納得させた。

義父は病院に着くとすぐに検査室へ運ばれた。

3歳の息子と病院の待合室で待つ。

慌てて出てきたので、息子のおもちゃは何も持ってきていない。

自動販売機で飲み物を購入し、小声で手遊び歌を歌いながら呼ばれるのを待った。

検査が終わったらしく、医者からの話を聞くことになった。

看護師が鈴奈に話しかけてくる。

「丸田広一さんのご家族の方ですね。」

「はい。そうです。息子の嫁の丸田鈴奈と言います。」

「先生からお話があるのですが、、、どなたかお子さんを預かってくれる方はおられないですか？」

鈴奈は、言った。

「すみません。私だけで、、、」

看護師は言う。

「大丈夫ですよ。僕はお母さんの膝の上にいようか？」

通された診察室には、奥に沢山の機器が置いてあった。

鈴奈は、息子の勇太を抱きしめる。

勇太は退屈なのか、鈴奈から離れようと少しもがいていた。

「勇太。先生の大事なお話があるの。いい子でね。」

入院の書類を渡されて、鈴奈は説明を受ける。

人工呼吸器の使用、身体抑制の許可、輸血の使用、重篤化リスクの説明、点滴や検査の許可。

沢山の説明文に次々とチェックされていく。

「入院して治療を開始します。もしかしたら状態が悪化して死亡する可能性もあります。他のご家族にも連絡しておいてください。現在は意識がありませんが、意識が回復しても重篤な後遺症が残る可能性があります。」

息子を抱きしめながら、鈴奈は想像以上の状態に驚いていた。

昨日までは元気そうにして、勇太と毎日遊ぶと言っていた義父が急に倒れたのだ。

「わかりました。」

医師の説明が頭の中を通り抜ける。なじみのない単語や文章にとても理解できたとは思えなかった。鈴奈は頷く事しかできなかった。

「ママ。ジージいつ遊べるの？」

祖父と遊ぶことを楽しみにしていた息子が尋ねてくる。

「大丈夫。きっと遊べるようになるから。」

鈴奈は息子に言った。

その言葉を聞いた医師の表情は険しいままだった。