第12話 通じない火曜日

月曜日は結局夕方になって鈴奈は帰宅した。


半日以上病院にいたことになる。


病院の中の売店で食事を買い、勇太と食べた。


夫の良と義母に何度も連絡をしたが、電話が通じない。SNSも既読がつかなかった。







自宅に帰ると、義祖母の文が待っていた。


「鈴ちゃんお帰り。疲れているね。」


相変わらずダイニングの椅子に座っている文に、鈴奈は話しかけた。


「遅くなりました。お祖母さんはご飯を食べられましたか?」


文は穏やかに笑って言った。

「ありがとう。頂いたよ。私の事は心配ないからね。ゆっくり休んでおくれ。」


義父が大変なのに、連絡がつかない夫と義母。高齢で穏やかな義祖母だけが、鈴奈に寄り添ってくれる。


「ありがとうございます。お祖母さん。」


鈴奈は、寝てしまった息子を抱き上げて2階へ向かった。






火曜日になり、鈴奈は義両親の部屋へ入った。


義母はまだ帰ってきていないらしい。


義父の下着や小物を持って行かないといけない。





義両親の部屋は広かった。


2台のシングルベッドが離れた場所に設置されている。


大きなウォークインクローゼット、年季が入った箪笥、豪華な刺繍が入ったカーテン、複雑な模様のペルシャ絨毯。


(下着は箪笥だよね。)


鈴奈は、箪笥へ向かった。


箪笥の一段目の引き出しを開ける。


中には書類が入っていた。


(違うわ。)


2段目の引き出しを開ける。


数十個のハンカチやネクタイが整頓されて並べられている。


3段目の引き出しを開けようとした時、、、、









ガチャ。





「なにをしているの?」




鈴奈は驚き後ろを振り向いた。



そこには、帰ってきた京香が、鈴奈を睨みつけていた。



「愚図な嫁が、今度は泥棒にでもなったのかしら。勝手に部屋に入って漁るなんて信じられないわ。」







鈴奈は、顔を赤らめ言う。


「お義母さんこそ、どちらに行かれていたんですか?昨日から何度も連絡したんですよ。お義父さんが意識不明で入院になりました。もしかしたら、、、命の危険や後遺症が残る可能性があるそうです。昨日説明を受けたので、今日荷物を持って行かないと、、、、」






京香は顔を顰めて言った。

「まあ、面倒ね。とにかく貴方は、出て行って。2度と勝手に入って来ないでくださいね。」




昨日からすごく大変だった。

息子を抱えて病院へ行き、かなりの時間を待った。それなのに、義母からは邪険にされる。



鈴奈は体を震わせながら部屋から出て行った。












リビングに行くと、義母が買ってきて食べたのか、複数個の空容器が机に置かれている。


酢豚のような甘辛いたれが残る容器、大きなケーキが入っていた容器、チョコの詰め合わせの箱、こってりとしたオートブルの詰め合わせ、朝にも関わらずカクテルの空き缶まであった。




昨日は忙しくて買い物に行けなかった。




今日は、買い物に行かないといけない。



2階から降りてきた息子は義祖母と遊んでいる。



とりあえず、義母には連絡が取れた。後は夫に連絡しないといけない。



鈴奈は、携帯電話を取り出し履歴を確認する。



SNSは相変わらず既読になっていない。



それでも、夫に連絡が取れるかもと、望みを託して携帯電話を操作した。





















鈴奈は、夫に何度も連絡をした。


だが、一向に連絡が取れない。


買い物に行き、掃除や洗濯を済ませて昼食を作る。



昼食後、義母が病院から帰ってきた。



ちょうど、鈴奈は夫の会社の電話番号を調べている所だった。


「なにをしているの?鈴奈さん。」


義母が話しかけてきた。


鈴奈は返事をした。

「良くんと連絡が取れないのです。携帯電話の調子が悪いのかもしれません。会社の電話があるはずなので、会社に聞いてみようと思って、、、」


義母は言った。

「その必要はないわ。広一さんはさっき目を覚ましたみたいだから。先生の話では後遺症が残りそうって言っていたけど、命の危険は無くなったそうよ。本当に面倒よね。ぽっくり死んでくれたら生命保険が下りたのに、、、」


鈴奈は言う。

「お義母さん。なんて事を、、、そんな不吉な事を言わないでください。」


義母は言った。

「まあ、本当の事を言っただけよ。良に慌てて連絡をする必要はないわ。どうせ週末には帰ってくるでしょう。」


鈴奈はしぶしぶ返事をした。

「ええ、でも、、、」


その時、息子の勇太が義母に近づきその手を引く。


「バーバ。ジージはいつ帰ってくるの?」



義母は、勇太の手を思いっきり振り払った。


バシ。


勇太は目に涙を溜めて鈴奈に駆け寄ってくる。


「本当に、うるさいわね。嫌になるわ。鈴奈さん、しっかり子供の躾をしてくださいね。私は忙しいですから。」


勇太は、思いっきり泣きだした。



ウ、ウ、ウ、ウ、ウエーン、ウエーーーン、ウエーーーン。


義母は、鈴奈に怒鳴る。

「鈴奈さん!」


鈴奈は謝った。

「すみません。勇太。大丈夫よ。ジージは帰ってくるから。また遊べるわ。」






義母は、ボソッと言った。

「あんな人。帰って来なくてもいいわよ。」














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