第十二章 失われしもの
翌朝、準備を終えた俺たちは王都へ帰投すべくミラルシア公国=ブルラシア王国国境地帯へ向かっていた。
「ふー、やっぱしこの辺りはまだ暖かいですね〜」
「そうだな。もう雪国は懲り懲りだぜ」
レイとメッケが手で顔を仰ぎながら言う。
「そうだな。実は俺も寒いのは嫌いなんだ」
「え隊長寒いの嫌いだったの!?」
アルハルドが意外そうに驚く。
「私は暑いのが嫌いですね。しかもこの調子なら、もっと暑くなりそうなので最悪です」
ミリムが気にせず語る。
「えまだ暑くなるの!? 流石にこれ以上は嫌だなー」
メッケが怪訝そうに話すと、レイが反応する。
「え、そうなの? 俺はまだまだいけるけど」
「んなんだと!」
「そう言えばお二人はどういうご関係なのですか? かなり仲の良さそうな感じですが」
「仲良くない!」
「仲良くない!」
「けど、前にちよっとな」
「けど、前にちょっとな」
「お二人揃って言う必要は無いですから。というか、これを仲がいいと言わずして何を仲がいいと言うのでしょうか」
「だから仲良くない!」
「だから仲良くない!」
「ほらほら。そろそろ検問所だぞ、お前ら」
と、ここで何か違和感を感じた。
「おやおや、これは皇太子殿下で在らせられるではないですか。さ、どうぞお通り下さい」
「……ああ、ありがとう。それより、何か異常でもあったのかな?」
「いえいえ、何も御座いません。この辺りは戦場とも遠いですから」
「そうか。では、行かせて貰うぞ」
「はい。どうぞお気をつけて」
検問を通り過ぎたあたりで、クイナが話しかけてきた。
「隊長殿、まさか」
「ああ。ここはもはや、王国であって王国でないのかも知れない」
「そ、それはどう言うことですか?」
「クーデターだ。……まさかとは思うがな」
「誠ですか!?」
「ああ。みんな念の為臨戦態勢に入っておいてくれ」
「はい!」
「はい!」
「はい!」
「はい!」
「はい!」
「はい!」
「はい!」
「大臣。つい先程、王子一行が国境の検問を通過したと報告がありました」
「そうか。首尾はどうだ」
「はい、滞りなく。しかし、いくらなんでも王都の守備は薄すぎませんかな」
「いいや、穴に潜り込ませるにはかえってこっちの方が都合が良い。王子一行を見かけても手出しをしないよう指示を出しておいてくれ」
「分かりました」
……これで、本当に変わるのか。
検問を通り四日ほど経ったか。依然なんの異常も見られないが、何処か違和感を感じずにはいられなかった。
「驚くほど静かですね」
レイが囁く。
「ああ。本当に、君が悪いくらいにな」
「メッケ、慎め。これでも民が戦禍に巻き込まれていないだけ幸福に思うべきだ」
「そうか。隊長殿も、変なこと言うんだな」
「いいや、俺の思ったことを言っただけだ。それよりも、あと数刻で王都に入る。皆、心しておいてくれ」
「遂に来られたか」
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