第十一章 NEW WORD ORDER

 「おい」

 「なんでしょうか、大臣殿」

 「今から一週間ほど、この配置で頼めるか?」

 「はい。……ですが、ミラルシア公国との国境北方に穴があるようですが」

 「ふん、これはわざとだ」

 「わざと……でありますか」

 「ああ。元皇太子殿下を誘うための抜け穴よ」


 「ふー、やっと終わった」

 メッケ含め、皆疲れ切っている。

 しかし初の合戦だ、これほど損耗してしまっても仕方が無いだろう。

 「いやー、殿下。いくらか敵兵を取り逃したのは痛いですが、なかなかの采配でしたぞ」

 「そうか、ありがとう。メニセウス。そう言えば、貴隊の損害は如何程か」

 「はい、損害は軽微にて。いつでも戦えますぞ。……と言いたいところですが、やはり無策で立ち会うのは危険ですな。それなりの数が重傷、または戦死致しました。ですがここは中央都市にほど近い、町でいくらか志願兵を募って来ます」

 「ああ、宜しく頼んだ。私達はこれより王都へ帰投し、補給船を寸断され逃げ道を失った敵を今こそ撃滅すべきと我が父、ビィリーズ・オブ・クリルに進言してくる。またいつか、会えることを楽しみにしているぞ」

 「ははっ、殿下のお呼び出しとあれば、例え火の中水の中、すぐさま馳せ参じようぞ」

 「期待しているぞ。では、みんな荷物をまとめてくれ。王都へ帰投する」

 「……待って」

 「……ん?」

 いつの間にか、ミリムが此度の戦で亡くなった骸の一つに、手を触れていた。

 「ほほう、霊光者たあ珍しい」

 「メニセウス、知っているのか?」

 「ああ。あれは霊示の儀と言って、死者をあの世に送る儀式だ。うちも誰かが死んだ時には元々やっていたが、司祭様が亡くなってそれ以来やっていないんだ。にしても、いつ見てもとんでもねー光景だな、これは」

 ミリムが骸に手を添えてしばらくすると、各骸から霊魂のようんはものが飛び出し、浮遊し始めた。

 「迷えしこの世の傍ら達よ。汝ら最早滅びし最果ての骸なりて。なりしや我が手によてまた地に行かん」

 「迷えしこの世の傍ら達…………」

 「ああ、そういやウチの司祭様。死んだのが一人だけの時もそう言っていたな」

 「そうか」


 『各々で眩き光を放つ霊魂達が、今解放された』か。


 「よし、お前ら。帰るぞ! 我ら祖国へ!」

 「グー」

 「……ん?」

 どこからか威勢のいい腹の音が聞こえて来た。

 「ち、ちなみに私じゃないんだからね!」

 なるほど。どうやらアルハルドらしい。

 「……分かった。中央都市で少し休ませて貰ってから帰るか」


 「綺麗だ」

 夜、眠れない俺は市外に出て星を見ていた。

赤白黄色。真っ青の暗い闇の中に、確か光がかい見えている。

ふとあたりに広がる平原を眺め、横になる。

「こんなところで寝ていると、風邪ひきますよ」

「わっ!?」

 突如現れた美少女の顔に驚いた俺は、すぐさま左に体を一回転させ、起き上がった。

 「……なんだ。ミリムか」

 「私の顔、どうかした?」

 「いいや。本当に綺麗だなって」

 「そうなんだ」

 今俺の隣には、彼女が。ミリムがいる。これとまた同じような状況に、いつか分からないほどの過去で。出会っていたような気がした。

 出会っていたような……気がしてならない。

 「何をしていたの」

 「ああ。眠れないから、星をみに来ていたんだ」

 「そうなんだ。でも、早く寝ないとダメ」

 「アワワッ!」

 彼女は突如、俺の体にもたれかかってきた。

 「ほら」

 「ち、ちょっと」

 「早く寝て」

 「分かった。早く床に着くからどいてくれ」

 「床に着くだけじゃダメ。しっかり寝て」

 「分かった、分かったから。もう寝るから」

 「分かった」

 ミリムが退くと、俺は逃げるようにその場を後にした」


 「ああ、やっと一人に戻れた」

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