第十章 移り変わる世の中

 「メッケ、カバーだ!」

 「おうよ! ほいよおっと!」

 「グサッ!」

 「グフッ!?」

 味方歩兵の腹に槍が刺さろうとしているところを、メッケが敵から鹵獲した槍を投げて助けた。

 「おし、メニセウス! 騎兵は如何程だ!」

 「ああ、なんとかな。しかしあの戦い方はなんだ。あんなの見たことねーよ」

 「そうか。あれはアウトレンジ・アタックと言ってな、敵の射程外、つまり剣や槍の届かない位置から攻撃することを言うんだ」

 「あふとれんじあだっ……なんか言いにくい名前だな。殿下はどこで習ったんだ?」

 話中のところを敵兵が二人、左右に広がって突っ込んで来る。左の敵を手持ちの剣で切り落とし、勢いそのまま左の敵の剣をかわす。そして後ろを取って、切り落とす。

 「考えてるヒマはねーよ! やんぞオラ!」

 「……ふっ。おうよ皇太子殿下!」

 中央都市より援軍が来たら一気に挟撃出来るのだが、それはないものねだりというもの。

奇襲の勢いそのままこちらが押し込んでいる。

一気に片を付けて、退路を断っているうちに殲滅せねば。この勝機を、モノにせねば。

「おめえーら! 俺に続け!!!!!!」


 「……それで?」

 「……え?」

 「それでさ。なんでお前がフェンシング始まるきっかけと繋がるのさ」

 雄大がしつこく、俺の顔を覗き込むようにして聞いてくる。

 「いや……正直俺も実は分からない。まあ、強いて言えばお爺ちゃんが戦後始めたから、って感じになるけど」

 「そうなんだ。それなら、やっぱりそうじゃ無いの?」

 「……何が?」

 今度は修哉が横槍を刺す。

 「何がって。結局は、そのお爺ちゃんと同じ理由なんじゃないの? って」

 「まあ、そうなのかな。ちなみにお爺ちゃんは、戦争について知りたいから。なんて言ってたけど」

 「戦争について知りたいから?」

 雄大が聞き返す。

 「そうだ」

 「お爺ちゃんって、少年兵として従軍した人なんだよね? それでもなんで、知りたいんだろうね」

 「……てかなんでフェンシングと戦争が繋がるんだ? フェンシングはスポーツで、戦争は単なる人殺しじゃ無いか」

 「いや、そうとも言い切れないかも知れないよ。実際柔道だって、元は柔術という殺人術が元になっているから」

 「……いいや、それでもな」

 「まあまあ。でもさ、戦争って、比較的最近のものだと欧州で結構起こってたりするよね。フェンシングってさ、欧州のスポーツだからそれで決めたんじゃ無いかな」

 「うんーーん」

 「うんーーん」

 なんとか二人を考え込ませるのに成功した。二人って何気に仲悪いからなー。

 ……そう言えば、なんで、本当に。人間は戦争をするんだろう。


 暑い陽だまりの中、グラウンドを駆け回る男子部員達。

 ……つか本来ならあそこにいるはずの俺は、一体何しているんだろう。

 「ほら郷司! 早くドリンク持ってきて」

 「あ、郷司こっちも手伝って! タンク重すぎて持てないの!」

 クソ。いくら遅刻したからって女子達と一緒にマネージャーの仕事をさせるこたーねーだろ。

 「くう……なんで俺はマネージャーの仕事を…………」

 「寝言言っていないで、さ。早く持って。どうせスピード自慢の貴方じゃ一人で16リットルも入ったタンクを持てないでしょ」

 「いや俺だって鍛えてるわ。ほら……おおっ!?」

 あぶね。危うくぶちまけるところだった。

 「ほら、言わんこっちゃ無い。さ、早く行くよ」

 「へいへい」

 く、なんでこんなことを……。

 「先生! ボールが木にひっかりました!」

 「クソまたか。あの球取り樹木め。おい郷司! 今すぐ倉庫からいい感じのボールを取ってこい!」

 「なんだよハゲ先生―。今はドリンクが一杯入ったウオーターサーバーのタンク運んでるノー」

 「な、なんだハゲとは! 貴様停部にさせられたいのか!」

 するとベンチの方から三人の女子マネージャーがやってきた。

 「これは私達が運ぶから、早く行ってきな」

 「そうそ。アンタ腕は良いんだから、大人しくしてるのよ」

 「……へいへい」


 今思えば、これが。俺の二つの人生の、転換点だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る