第九章 反乱

「それで、殿下。これからどうする」

「そうだな。まず本国へ帰るのが大前提だ。しかし、それには中央都市を落とそうとしている敵軍三万を殲滅しなければいけない。以下も敵は未だ横陣を組んでいるため、北方への迂回軌道もほぼ不可能に近い。だからと言って待っていたら、物資に乏しい私達は凍え死んでしまう。この場に集まっているみんなも、何か気付いたことがあったら教えて欲しい」

 アルハルドはそこらを歩き回って、クイナはボーッとして。マイケルは槍を、メッケは剣を磨きながら。フレイヤは鍛錬しながら。ミリムは天を仰いで、レイは自分の髪の毛にした時期のようなものを擦らせて静電気を発生させながら。

 みんな、各々で策謀を巡らせているようだ。

 すると、クイナが何かを思いついたようだ。

 「そう言えば、弓兵っ騎兵の後ろにまたがることは出来ましたっけ」

 「どう言うことだ?」

 「はい。以前の戦でブレイガー軍部大臣が騎兵の後ろに弓兵を乗せて敵軍を翻弄し、殲滅したと言う話を思い出したのです」

 そうか。そう言えば俺も本で読んだことがある。……本って言ってもクミンが間違えて持ってきた軍誌だが。てかあいつ、どこからそんな機密書類を持ち込んできたんだ?

 ……まあ今はそんなことどうでもいいか。

 「ああ、そういえばそうだったな。では我らもそれを真似るとしよう。メニセウス、弓兵はどれくらいいる。あと鎧の数知りたいのだが」

 「弓兵なら、14000中4000ですたい。しかし鎧は……おい。誰か持ってたか?」

 メニセウスが副官らしき人物に問うた。

 「いいえ、ですが馬具を幾つか改造すれば、似たようなものは作れるかと」

 「よし、決まりだ。殿下、その話俺達も乗ったぜ」

 「分かった。ではクイナとアルハルドは騎兵に搭乗、他は歩兵として出るぞ。ミリム、レイの護衛を頼んだ」

 「分かった」

 「よし、みんな出撃は今から一時間後とする。派手にやろうぜ」


 かつて、ビィリーズ・オブ・ブルース皇太子殿下のお父上。ビィリーズ・オブ・クリル国王陛下があらせられた謁見の間に。先の出来事が起きて、初めて。登場することになった。

 今はまだ扉を守る衛兵はおらず、帝国国境へ馳せ参じた残党を討伐すべく向かっている。

 そして私は、大切な用があり、この場へ参った。

 大きな扉を開けると、この出来事の差金となった人物が玉座に座っていた。

 「おやおや、大臣殿。この度のご活躍、とんでもなく凄まじいものと聞きましたぞ」

 「ふん、この度の失態は貴様のために行ったのでは無い。私が、己が忠義を果たすために行ったことよ」

 「ほお、随分と戻られて来ましたな。それこそ、この国の大臣に君臨すべきお方だ」

 「勘違いするな。俺はあくまでも軍事を預かる身。政治など雲の上の話だ」

 「ほう、そうですか。それは残念ですな。しかしながら……付かぬことをお聞きしますが。それなら何故この場所に来られたのですかな?」

 「…………」

 「ま、良いでしょう。いくら問うても、露にはされますまい。それよりも、共に作りましょうぞ。新たな王国を」


 「ケリ君! ねえ、ケリ君ってば!」

 「アブファッ!?」

 「ふふ、イヤーな寝起きね。それよりもね、ケリ君、ちょっと私と来てくれないかな?」

 「なんぢゃいや、そでよりもまだねぶい……」

 「もうケリ君ってば! 折角こんな辺境まで来てるんだから、一緒に遊んでよ!」

 「んん…………?」


 辺境……か。言われてみれば、そうかも知れない。俺は、ここまで綺麗な自然というものを、一度も見たことが無かったのだ。


 「ねえケリ君! 早く行こう! 真っ赤なお花畑とか、まっきっきなお花畑とか、それに…………それにね!」


 私はミーナの頭を優しく撫でる。真っ黒で、よくお手入れされた綺麗な彼女の黒髪を。


 「なんだ、お花畑ばかりじゃ無いか」

 「そ、そうだけど! ね、早く行こうよ!」


 もう、よしてくれ。もう、絶対に。後戻りは出来ないんだ。


 「ビィリーズ・ゴッド・オブ・ミーナ…………」

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