第三篇 若き灯
第一章 事実
中学二年生の夏。
俺はフェンシング元日本代表、そして元日本軍少年兵の祖父の元へ訪ねていた。
「おお、司か。元気にしとったかの?」
「うん、勿論だよ。お爺ちゃんも元気にしているみたいで、良かった」
「ふん、それこそ当たり前じゃ。軍にいた頃に鍛え今でも維持し続けているこの肉体を見よ。……と、何か訳ありのようじゃな」
「うん。なんで日本は、世界中を敵に回して戦争をしなくてはならなかったのかなって」
「ふむ。ワシはあくまで一兵士じゃったから、戦略など規模の大きな話は雲の上じゃった。それもワシが生まれた頃には、もう既に戦争は始まっておったからの。じゃから、これから話すことはあくまで、一兵士としての経験じゃ。それでもなんかの足しにはなるじゃろうから。
あの時ワシは、沖縄に住んでおってな。鉄血勤皇隊という、言わば少年兵だけで構成された部隊に配属された。ヒョロ坊だったワシは千早隊と言って、司令書などの伝聞係をすることになった。この任務も複数人で一枚の伝聞を遣わされて、誰か一人が辿り着ければいいという過酷な任務だったが、こんなのまだマシな方だった。
敗戦後ワシはかつての学友と再会する機会に恵まれたのだが、あるグループと話をした時だった。そのグループは斬り込み隊と言って、爆弾を背負って戦車にわざと轢かれて、車体下部で爆弾を爆発させ、キャタピラを切るといった任務だった。つまりは、特攻だ。特攻と言えば航空機によるカミカゼ攻撃、有人魚雷の回天があるが、これは十七歳以下の少年が行ったためより凄惨なものだった。
俺は耐え切れず、その場を後にした。戦争とはなんでここまで悲惨で、ここまで頻繁に起こってしまうものなんだ。人間でさえも単なる数字として扱われてしまう戦争が。なんで、国家の暴力装置となりえてしまうんだ。
「なんで、人は戦争をするんだ」
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