第七章 友
「……ん?」
「お、目が覚めたか?」
「んん……」
「お前、まさか大臣候補とか言われてても実は結構な寝坊助さんだったりするのか?」
「うはっ!?」
目が覚めると、そこは大きな白い、まん丸の洞窟みたいなところだった。そして、すぐ横で寝そべっているのは……。
「イケイル!?」
「かまくらって言うんだ、もしかして知らないのか?」
……無視かよ。
「あ、ああ。これ、まさかお前が?」
「ああそうだ。成人男性二人分の穴を掘るのは、流石の俺でも疲れたぞ」
「そ、そうかありがとうな。……穴って?」
「ああ、ここも雪の中だ。何とか空気穴も作ったから、もうしばらくは体を休めるだろう。これ、部下の荷物からとってきた」
イケイルが差し出したのは、竹の水筒に入った温かいスープだ。
「部下の荷物からって……」
「ああ、死んだ部下の荷物だ。だが俺たちは生きている、今はそれだけでいいだろう?」
「……ああ分かった。ありがたく頂くよ、チクショウ」
私はスープを一気に飲み干した。
「おいおい一気かよ」
「ああそうだ。食事などに時間を取られていては、敵に遅れをとることになるからな」
「いやいやそうじゃなくて、熱くないのか? 俺でよければフーフーしてやるが」
「たわけ。雪山での作戦もこれが初めてだというわけではない、これくらい慣れっこよ」
「そ……、そうか。雪崩に感謝せんとな」
雪崩……雪崩か。そういえば、何かを忘れているような……。
「てなぜ敵の俺を助けた!?」
イケイルがスープを思いっきし吹き出し、こう答える。
「ブハフッ!? おいおい今更大声で叫ぶな。それに次が来たら流石に助からんぞ。正直お前が敵方の重役中の重役というのは知っている、今ここで殺せば祖国が一気に有利になるということもな。しかし、何故だかな。貴様を殺すのは、今では無い気がしてな」
「それは何故だ? こちらからしたら姪の仇を取る気満々なのだが」
「だが今はそうしていない、それにどうやらお前は雪山にはまだそれほど慣れていないようだ。つまり生殺与奪の権を持っている俺を今ここで殺すとは思えない」
「く……」
「図星だな。つまりはそういうことだ。それで、これからどうするかだが」
「我が陣へ御同行願おう」
「何故そうなる!」
「現状そちらの主力は俺があらかた壊滅させている、つまり帝国軍は既に撤退している可能性が高い。となるとこちらに来るしか生き残れないのではないか? それに何処かのアホクソ将軍が攻戦一方でせめて来てくれたお陰で雪崩である程度流されたにせよ王国領の方が教理的のも近いはずだ」
「く……そう言われると何も言えんな。分かった、そちらの陣へ向かおう」
「それで、俺の親父はどうしたんだ?」
「捕虜として丁重にもてなさせて頂いたあと、次の休戦条約調印の際に多額の身代金を頂いて解放したと聞いている。どちらにせよ、帝国に帰っていなかったら今頃君は存在していないんじゃないか?」
「……それもそうだな。だがあの戦闘狂ジジイ、俺が生まれた直後にまた戦地に赴いて、今度は槍に突かれちまった」
「そうか。それは災難だったな」
「ああ。災難ついでにもう一つ話をしないか?」
「いや、流石にそろそろ決着を付けなければ民達が飢え死にするのだが」
「それは安心しろ。行商人を脅して俺たちの食糧を売るよう言ってある」
「ふん、親子揃って敵か味方か分からぬ者よの」
「敵さ。少なくとも今はな。それより、親父とそこまで仲良くしていたなら聞いているはずさ。大陸国家論……ってやつをよ」
「おい、クミン。この大陸国家論ってやつを知っているか?」
「あ、はい。学資を読まれているのですね。この大陸国家論というのは、簡単に言えば帝国と王国が協力して南の大陸より押し寄せてくる大群を跳ね除けろ、という伝承ですね。現在南の大陸はブラッシナル共和国が全土を手中に収めているので、そのブラッシナル共和国からの攻撃からこの大陸を守りぬけ、というのが通説のようです」
「ブラッシナル共和国というと、今内戦中の眠れる獅子か? まだまだ戦況は拮抗していると聞いているが」
「はい。ですが両勢力共に指導者が世代交代したとのことなので、しばらくすると優劣がつけられる可能性があります」
大陸国家論……。この時、何故かは分からないが、絶対に覚えてかないといけない気がした。
「ああ、聞いている。しかしこの状況を見ていてもそんな絵空事が言えるか? 俺達は戦う運命なんだ、お前がいくらこちらに塩を振ろうとな」
「だからこそだ。だからこそ、戦って、白黒を付けて、この地を統一し、より良い世界を作り上げていかないといけない。敵国の運命を背負って」
「ふん、テメエの運命なんざテメエで決めやがれ。いざ、尋常に勝負!」
怒りに任せ突進し、一気に薙ぎ払う。しかし予想通りにかわされる。そして第二撃……とった!
「ふん、喋り疲れたんじゃねーか? 詰めが甘くなってんぞ」
「ふん、なんのこれしき」
防がれた剣でこいつの剣を振り払う。奴は距離を取った。
「一応言っておくが、お前は今俺と親父、二人と相手している。最期にお前とやりあえなかった我が父の無念、とくと味わえ!」
攻守が逆転する。こいつ、先より動きが早くなっている。
「あ、そうだ。お前が俺たちを負かしたら今度はお前が背負う番だ。祖国をより良くするという思いは、同じはずだからな」
「ふん、覚えておこう」
やつの剣を薙ぎ払った、その時。
「グハッ!?」
……抜かった。薙ぎ払った剣が、吸い込まれるように横腹に突き刺さる。
「お、今の入ったか。会話に集中しすぎたんじゃねーの?」
「ふう……ふうう…………」
重傷を負った俺の目に、白き光と、懐かしき姿が写った。
「頑張って、ケリ君」
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