第三章 父子

 あれはまだ、父がいて、母と呼べる存在がいて。俺がまだまだ幼かった頃のこと。


 「ねえ、お父さん」

 「なんだい?」

 「お父さんはね。なんで、戦っているの?」

 「ふむ……そうだね。ちょっとお散歩に行こうか」

 「うん、だけどクンレンはいいの?」

 「良いんだよ。父さんの部隊にいる人は、みんなとっても強いから」

 「そうなんだ! それなら安心だね!」


 「わ! 見て!」

 「なんだい?」

 「オサカナさん!」

 「そうだね、それはアユだね」

 「アユ?」

 「そう、アユ。この時期によく見かける川魚で、塩焼きにするととても美味しいんだ」

 「シオヤキ!?」

 「そう、塩焼きだよ。確かミリーは豚肉の塩焼きも好きだったよね」

 「うん! ミリー、塩焼き大好き!」

 「そうか。それなら、少し焼いていくか?」

 「うん!!!!!!」


 「うわー、パチパチ言ってる」

 「近付き過ぎると火傷するから危ないよ」

 「ねえ」

 「ん?」

 「聞こえるのは、パチパチだけだね」

 「そうだね、パチパチ以外、何も聞こえないね」

 「ねえ」

 「なんだい?」

 「なんだかとっても……綺麗だね」


 「ふー、おいしかった!」

 「良かった。もう少し休憩したら、出発しようか」

 「うん!」


 「アユの塩焼き、美味しかったー」

 「また食べような」

 「うん! そういえばさ。何処に向かっているの?」

 「もう少しで見えてくるよ……ほら!」

 「わ――!!!!!!」


 「やっぱり、ここは人が多いね」

 「そうだね、ここは街の中だから。郊外よりはとても多いんだ」

 「そうだね……」

 「おや、もしかして疲れたかな?」

 「う、うん……」

 「そうか。それならそこの大きな塔で休憩しようか」

 「うん!」


 「ねえ、まーだー?」

 「もう少しの辛抱だよ。……だけどこの階段はお子様には辛いか」

 「オコサマじゃない!」

 「そんなこと言って、足が動いてないぞ? ひょいっ!」

 「あー!」

 「たまには人に頼ること、人を遣うってことも覚えないといけないぞ?」

 「う……うん」


 「ほいほい……」

 「ん、んん……」

 「ミリー、起きて。着いたよ」

 「ん、うーん…………!?」


 澄み渡る青い空。真っ白な大きな雲。豊かな自然。そして綺麗で美しい帝都の街並みに、行き交う人々。俺は……僕は。この街を、この国を。父が我が身を滅ぼしてでも守った祖国を、守りたいんだ。


 打ち始めて数十秒経たんとしている、か。

 なんとか初撃はかわせたものの、その後に続く剣技が早く、そして重い。正に防戦一方だ。

 「く……」

 「おやおや、イケイル殿の御子息がこの程度ですかな!」

 「な……父の名を!?」

 「ほーら!」

 少し隙ができたかと思うと、とてつも無く重い一撃を繰り出してきた。

 不明の刃が私を……俺をじっくりと踏み潰すかの如く重く長い太刀が襲う。

 「く……この技で……この力で我が父も手にかけたのか…………」

 「ふん、どうやら誤解しているようだな」


 私はこの忌まわしき誤解を、此奴の剣を。

振り払い、距離をとった。

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