第六章 定

 「何、ミーネシア山地を越えられた!?」

 「はい。極秘裏に帝国より義勇兵が送られていたようで、今尚進撃中とのことです」

 この知らせが入ったのはつい先程。しかし早馬の走破時間を考えると……。

 「クソ……まんまと裏をかかれた訳だな」

 「はい。しかし、まだ首都内で立て篭っている可能性があります。そのため、私自ら赴きたく思います」

 ……そうだな。どのような状況か分からない以上、こいつに任せるしかない。

 「分かった。速やかに軍を編成し、救援に駆けつけよ。あくまでジョナサン公の命が最優先だ。頼んだぞ、ブレイカー・ケリュー軍部大臣」

 「ははっ!」


 「おい」

 「はい」

 「前線の状況はどうだ」

 「現状厳しい状況に置かれていますが、何とか丘陵地帯にて小康状態になりつつあります」

 「そうか。奴ら騎兵隊を主力に置いているようだったからな、この丘陵地帯では単なる足手纏いだ。しかし念の為後方にも気をつけておくように指示を出しておいてくれ」

 「分かりました、各部隊長に伝達しておきます」

 「頼んだ」

 何も起こらないでくれよ。


 「ベリウス将軍、何故進撃なさらないのですか!」

 「クリウスか。まあ、色々あるのだ」

 「……色々とは、何かお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 「ああ。まず、後方がどんな状況に陥っているか知ってるか?」

 「……いいえ」

 「はあ……お前もまだまだだな」

 「と言いますと?」

 「今後方では諸民族がパルチザンを起こしていてな、本国からの物資供給が滞っているのだ」

 「何ですと!?」

 「そのせいで我が軍は攻勢限界に達しつつある」

 「そ、それは何ということ……」

 「ま、そういうわけだ。だからお前には部隊を率いてそのパルチザンの掃討を行ってもらう」

 「そ、掃討……よろしいのですか? ただでさえ我が方も一枚岩では無いというのに」

 「さあな、しかしこれは本国からの命令だ。従う他無い」

 「本国の……誰の命令なんですか?」

 「女帝殿だ」


「……え?」

なんで? ……え、私の青春は? 夢の東京旅行は?

「来年オリンピックがあるだろ? それでもう何処もホテルも旅館も民宿も予約で埋まってしまっていて。……本当に申し訳ありません」

担任の瀬戸口先生は本当に……本当に、申し訳なさそうに謝罪した。

「はーい」

すると幼馴染の古川郷士が腑抜けそうにしながら手をあげる。

「どうした、郷司」

「諸事情により行き先に東京を選ぶことが困難になってしまった、ということは十分理解できます。しかし、何故広島何ですか? 去年も先輩方がお邪魔しましたよね?」

「それは……ですね」

先生は頭を痛めたように悩み始めた。その姿に呆れ、私は助け舟を出すことにした。

「4年に一度開かれる世界規模のスポーツ大会、オリンピックの開催都市では観客などによりとても大きな経済効果を生み出す。つまりそれだけの人々がその地へ訪れるということ。しかもこれは開催都市に限らず、開催国全域にもたらすのです。そのため既に全国の宿泊施設が予約で埋まっている現状では、空きのある場所を行き先にするしかないのです。そうですよね、瀬戸口先生」

「そうです」

あっけなくそういう先生を尻目に、郷士が突っかかってくる。

「いいえ、それは理由になりませんね。何故なら時期がずれているからです。私達が修学旅行に行くのは春です、それに対してオリンピックは夏。どのような因果関係があるのでしょうか」

「郷司君、あなたそれでも日本人ですか? 春と言ったら我が国で桜が満開になる季節です。なのでオリンピックのついでに桜を見ようという人も多数存在するのです。そのため季節は違えど、影響を及ぼしているのです」

 とその時、教壇の方から「パンッ」と手を叩く音が聞こえた。

「そこまでです。いいですか、皆さん。青春は一度きりです。もちろん、その一度っきりの青春をこちらの事情で変えてしまうのは大変申し訳なく思います。しかし、修学旅行に行くのはあなたたちです。修学旅行を楽しむのはあなた達です。何があろうと、この修学旅行の主役はあなた達で、先生達はそれをより良くしようという脇役に過ぎません。しかし現状見たところこの修学旅行の主役は二人しかいないご様子。他の方々は一体何処にいったのでしょうか?」

怒り、不満、そしてやる気。先生の発言に、クラス全員の憎悪がぶつかった瞬間だった。

「では、学級長の二人、あとはお願いします」

先生が教室を出るのと同時に、私と郷司が同時に、教壇に向かった。

そして。

「では、学級会を始めます!」

「では、学級会を始めます!」

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