第五章 友よ

 俺たちがまだ六歳で、まだまだ幼かった頃。

「みーつっけた!」

「もー、ミナちゃん見つけるの得意だなー」

「えへへ……」

「二人とも、もうそろそろ夕暮れだ。早く帰らないと」

「そうだね! クローバ、今日はご両親いるの?」

「今日もお仕事で遅くなるって」

「そうなんだ。族長様も大変ねー」

「御領主様もな」

「……プッ」

「……プッ」

「プハハハハハハッ」

「プハハハハハハッ」

「それじゃ、今日もうちに来るか?」

「うん! よろしく頼むよ」


私とミナの兄妹、そしてクローバの両親はこの国を取りまとめる大物だった。そのため周囲から浮いていたのか、いつもこの3人で一緒にいた。


「ねえ、今日の晩御飯は何?」

「今日は僕特製のオートミールだ!」

「えー、またオートミール?」

「クローバのオートミールは特別美味しいからいいじゃないか」

「そうだね」


 一般的には庶民の間で食べられているオートミール、だけど実は栄養と呼ばれる体に良い影響を与える物が豊富に含まれていて、貴族達も食した方が良いらしいのだ。

 もっとも、これが国王様から聞いた話なんてことは口が裂けても言えないが。


 「ねえ、最近一気に増えたよね」

 「何が?」

 「僕たちの両親が家に帰らないこと?」

 「あー、確かに言われてみればそうかも」

 「でしょ!」

 「それだけ国境の動きが活発なんだろ。前回の大攻勢から今日で5年だ、これを節目に何か仕掛けてきてもおかしくはないだろ」

 「確かにな。確か前はクールー出張ってきたんだっけ?」

 「ああ。危うく二正面作戦を強いられるとこだったがクールー側の兵力が少なかったこともあって何とか撃退に成功した」

 「確かあの時の功績で軍部大臣にまで大出世したんだっけ」

 「ああ。ケリュー大臣の手腕には度々驚かされている。あの時南方海岸沿いの兵もほとんどが帝国方面に向かっていたから、あれだけ少ない兵力でよく撃退できたものだ」

 「確かあの時の兵力差は20倍……だっけ」

 「えそれ全然少ないんじゃん!」

 「いや俺は2倍だと聞いたぞ」

 「え……」


 「ドンッ!」

 突然の物音に驚くみんな。

 「……え?」

 「ねえ、今日って帰ってこなかったよね?」

 「そのはずだが……」

 「確か、あそこには納屋があったはず」

 「……どうする?」

 「……見に行こうか」


 私達三人は念の為武装して、主屋を出て、納屋に向かった。そして、そこにいたのは。

 武装した、盗賊らしき二人組だった。

 「お前ら、何をやっている!」

 「く、大使殿のお屋敷だったか」

 「通りで警備の連中もいたもんだ」

 「警備……まさか殺したのか?」

 「ああ、殺したよ。あんな人質にもならねー奴らいらねーからな」

 「……クソ」

 「よくも」

 「安心しろ、お前らは別だ。人質にして身代金を分取ってやる」

 斬りかかってくる男を振り切り、太腿あたりにダガーを一突き。

 「クッ……」

 悶える男が、こちらを睨む。子ども相手だからと油断させて隙を作ることが出来たが、恐らく次はそうはいかないだろう。辺りは沈黙に包まれる。

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 「…………」

 「ハアーッ!」

 またも突進してくる男。しかし、私も男に突進して斬りかかる。

 「グアッ!?」

 「クローバ!」

 「く、よくやってくれたな」

 小さくない傷を与え、動きが止まる。しかし男はまた、立ち上がった。

 「おい、大丈夫か」

 「問題ねー、これくらいの擦り傷ガキども殺すのに何とでもならねーよ!」

 男は、今度はジョナサンに向かって突進する。そして、ジョナサンが斬理科かられる。

 「クッ」

 「ハアッ!」

 なんとか凶器を押さえようとするも、力及ばず。心臓を突き刺そうとした、その時。

 「グフッ!?」

 「ジョナサン!」

 気付いたら、体が動いていた。一撃目で男の凶器を振り飛ばし、返す刀でさっきつけた傷口にもう一突き。

 「……クソ」

 「クローバ、大丈夫か?」

 「ああ、何とか」

 どうやら、本当に外傷はないようだった。

 「チクショ、覚えてろよ!」

 「待て!」


 この後すぐに執事長のスケイルが駆けつけ、犯人の捜索がはじまった。しかし、犯人を捕まえることは出来なかった。


 その翌日、俺たち三人は王国の王城に呼び出されていた。

 「王様から直々の呼び出しって何だろうねー」

 「あの二人巷じゃ結構有名な窃盗団だったみたいだから褒賞をくれるのかも!」

 「取り逃したけど、直系の大使殿のお屋敷を守ったんだからね」

 「と、そろそろ時間だ。二人とも準備はいい?」

 「いいよ!」

 「いいよ!」


 謁見の間への大扉が開く。そして、そこのいたのは。


 「……え」

 「嘘……で……しょ……」

 「…………」


 クローバの両親が猿轡をはめられ、両手両足を縛られている姿だった。


 「叔父殿! これはどういうことですか!」

 「ジョナサン、公の場では国王と呼べと言っているだろう。何、貴様を危険に晒した蛮族共をこれから処刑するところだ」

 「しょ、処刑……」

 「国王様! ジョナサンを危険に晒したのはこの私です! 何故私のご両親が処刑されなければいけないのでしょうか!」

 「ふん、クローバという若造が。まあいい、特別に答えてやる。お前がまだ幼いからだ。幼い子供の責任は親が果たさなければいけない」

 「そ、そんな……」

 「さあ、分かったら早く行け。面会は終わりだ」


 私とミナ、そしてクローバ。この時の絶望感は、未だに鮮明に思い出せる。その後の驚きも。


 「…………」

 「クローバ、大丈夫?」

 「……」

 「大丈夫なわけないだろ。俺がもう一度直万端してくる」

 「そ、それじゃ私も!」

 「いいや、ミナはクローバの様子を見ておいてくれないか?」

 「……分かった。気をつけてね、お兄ちゃん」

 「ああ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る